こらぼでほすと HGP番外編4
・・・・しょーがねぇー、ちょっと燃料でも補給するか・・・・・
こそっと起き出して、台所の大きな冷蔵庫まで遠征した。そこにしか目的物がないからだ。好きなものを、どうぞ、とは言われているが、さすがに本格的に飲むのは、自分も、ちょっと怖い。弱くないつもりだが、アルコール臭くなると、となりに寝ているのが、怒るに違いないからだ。しかし、他のは、皆、飲まないから、部屋の冷蔵庫には補充されないのだ。
「なんていうか、至れり尽くせりだよな、ここは。」
大きな冷蔵庫の中には、いろんな種類のビールが置いてある。各国取り揃えているのかと思うほどの品揃えの良さだ。まあ、それは、納得はできる。人種も出身国も違うバラバラの人間たちが出入りするから、どうしても、こうなるのだろう。ちゃんと、自分の国のビールもあったので、それを二缶、取り出した。この時刻だと、屋敷は稼動していない。シンと静まり返った空間を、自分の足音だけが響く。わざわざ戻ることもない、と、大きな居間のソファに腰を下ろした。
ぷしっ
プルトップを開けて、ごくごくと半分ほど飲んだ。よく考えたら、何ヶ月か飲んでいない。本格的にミッションが開始される前は、スメラギとちびちびと飲んだりしていたが、いつ、出なければならないのか、わからない状態で飲むわけにはいかなかったからだ。
「あーーーうめぇー。」
机に置いた、もう一本のビールに、自分のをカコンとぶつけた。
・・・どっかで飲んでるのかな・・・・
どこかにいるであろう人を思い浮かべて、うっすらと笑った。どこまでも理不尽で歪んでいる世界だが、穏やかに生きていてくれればいい、と、願っている。このビールが故郷の味だと言い合えるだろう相手。ようやく、それを思い出せる心の余裕ができた。
「輝かしくなくてもいいけどさ、戦いのない未来であればいいよ。」
ぽつりと漏らしたのが本音だ。ひとりになることが、ほとんどなかったので、なんだか、深呼吸するみたいにふうーと息を吐いた。まだ、先があるから、自分には無理だろうが、そういう未来へ辿り着いて欲しい。
そんなことを考えていたら、ヒタヒタと足音が近づいてきた。たぶん、となりで寝ていた相手だろう。
「ここだ。」
さほど大きな声でなくても、それは届いた。足音が早くなって、自分の前に辿り着く。
「どうした? 」
「それは、こっちの台詞だ。」
「目が覚めたから、大人の嗜みってやつをやってた。」
ほら、と、缶ビールを目の前で振って見せてやる。まだ、未成年は、それを取り上げると、がばりと抱きついてきた。
「ん? 」
「勝手にいなくなるな。」
「まだ、ダメか? 刹那。」
「ダメだ。」
取り上げた缶ビールを握りつぶしそうな勢いなので、それを、もう一度、取り上げて、ごくごくと飲み干した。あれから、姿がないと探すようになってしまった。余程、あの衝撃は凄かったらしい。
「勝手にいなくならないぜ? 今んとこ、俺は、おまえらに軟禁されてるようなもんだからな。」
「わかるもんか。 あんたは勝手だからな。」
「今度は・・・・いや、どうかわかんねぇーしなあ。・・・まあ、バイトしている間は消えないさ。そこから先は、約束できない。」
「それは、俺も、だ。」
「そうだな。・・・・寝られないのか? 」
「違う。あんたが動いたから。」
「眠り浅いんじゃねぇーのか? それ。」
音を立てないように、こっそりと動いたつもりだった。それでも目を覚ますというなら、あまり良い傾向ではない。別々に、寝ようと提案はしているが、まだ、イヤだ、と、拒否されている。
「浅いんじゃない。寒くなるから判る。」
「・・おまえは、猫か?・・・ったく、わかったよ、戻ろう。」
体温が感じられないと不安になるらしい。突然にいなくなったから、それが精神的に、かなり堪えているらしい。落ち着くまでは甘やかしておこうと、思っているが、なんだか、小さい子供みたいになっている。
「これも飲むんだろ? それからでいい。」
「いや、これはいいんだ。相手をしてもらっていただけだ。」
机に置いていた缶ビールを手にして立ち上がった。違う未来へと辿り着くだろう相手の代わりにしていた。そして、右側の二の腕辺りを掴んでいるのが、同じ未来へ辿り着くだろう相手だ。冷蔵庫へ、それを戻して、空き缶をゴミ箱へ捨てる。道は別れるのだと、それを見て頬を歪めた。
「おまえはいいのか? 」
「いらない。」
「なら、帰ろう。悪かったな、夜中に騒がせて。」
「かまわない。」
「明日の朝、好きなもの作ってやるよ。何がいい? 」
「えび。」
「えび? はあー、こらまた朝から豪勢な。焼くのか? 」
「野菜と混ぜたヤツ。」
「ああ、サラダな。」
誰もが眠っている夜明け前の屋敷を、たわいもない会話をしながら部屋に戻った。しばらくは夜中の飲酒もままならないな、と、内心で苦笑した。
作品名:こらぼでほすと HGP番外編4 作家名:篠義