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昭和初期郭ものパラレルシズイザAct.11

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「全く。無茶し過ぎだよ君は。」

新羅が呆れながら
臨也の足の包帯を取り替える

「と、君に言っても仕方無いのは知ってるけどね」

こういうのは君の性癖じゃないし

「寧ろ四木の旦那の性癖で君に拒否権は無いワケだし。」

あぁそれにしてもこりゃあ酷いなぁ治りが悪い

「出来るだけ動かさないでと言ったはずだけど?」
「へぇ?そうだったっけ?」
「敗血症とか破傷風の危険性を教えたはずだよ?」
「そうだったかなぁ。もう忘れちゃったかも。」
「よく言うよ。君程の記憶力の奴を僕は他に知らない。」
「そりゃどうも。褒めてくれてるのかな?」
「君が医者になれば俺よりもいい稼ぎの医者になるよ。」
「今でも新羅よりは稼ぎがいいと思うけどね。」
「確かにね。どうか長生きして欲しいと思ってるよ。」
「滅法金払いのいい客だから?」
「そう。闇医者の上客。ハイじゃ次」

こっち
聞かせて貰うよ?と
新羅が臨也の浴衣の前を開いて胸に聴診器を当てる

「息、吸って・・・止めて・・・吐いて・・・。もう一度。」
「・・・フフ・・・真面目な顔。医者らしく見えるね?」
「一応は医者だからねこれでも。で医者として言うけど」

問題は心臓だけじゃないよ
肺からも凄い雑音が聞こえてる

「この意味、解るね?」
「・・・・・・・あぁ。・・・成る程ね。」
「まだ明らかな症状は出てないみたいだけどもうすぐだよ。」
「・・・道理で。寝汗が酷いと思ってたよ最近ね。」
「咳は?」
「出てるように見える?」
「いや、見えないね?」
「お陰様でまだ出て無いよ不思議だけどね。」
「それは何より。まぁ医者として言わせて貰うと、」
「そろそろ終わりも近い?」
「ま、そう言う事。はっきり言うと。心臓と肺じゃね。」
「そりゃ良かった。」

もう
十分生きたよ

臨也が笑ってはだけた浴衣をかき寄せる

「どんな終わり方かと思ってたけど」

これじゃアッサリ

「病気でくたばりそうだなぁ。フフ。つまんないな。」
「何がつまらないの。十二分に悲惨な末路じゃない。」
「そこまではっきり言うとは清々しいね新羅?」
「だって君がそう言って欲しそうな顔だからさ。」
「察しがいいのも善し悪しと思わない?」
「医者として必要な技量だよ。」
「余計な事言うのも医者に必要な技量?」
「おや、珍しく絡むね。さすがに傷ついた?」
「あはは。まさか。俺が今更何に」

傷つく事があると思ってるのかな

臨也が営業用の艶やかな笑みで
誘うように闇医者を見つめる

「じゃあそう思ってるなら慰めてよ?」

ねぇ

伸ばされる男としては細い指先を
闇医者が笑って聴診器でやんわりと退ける

「ご冗談を。診療費をそれで帳消しにはさせないよ?」
「何だ。お見通し?」
「ハハ。君に遊ばれる気は無いから。高くつくし。」
「計算高い男は嫌われるよ?」
「その台詞は君の為のものだと思ってたんだけどね。」
「あっはは。さすが新羅。その通り。」
「じゃあこれ。新しい薬。」
「ハイどうも。いつものだね。」
「そう。悪いけど肺の方は、」
「解ってるよ。どうしようも無いんだろ?」
「そういう事。せいぜい店の子に移さないように。」
「客には移してもいいってワケ?」
「いいんじゃない?因果応報って事で。どっちみち」

今の君の客ってのは

「四木の旦那だけだろ?君は高値の花過ぎて。」
「本当にね。皆甲斐性無しで困ったもんだよ。」
「皆四木の旦那が怖いのさ。買えても買わない。」
「フフ。甲斐性無しの上に度胸も無い。」
「当たり前だろ。この街で遊びたきゃ」

誰だってあの人には

「遠慮するさ。怖い人だからね。じゃお大事に?」
「あぁ、どうも。」
「くれぐれも無理して動いちゃ駄目だよ?」
「まぁ気をつけるよ。」
「どうせ旦那次第だけどね。死なないよう祈ってるよ。」
「優しいなぁ新羅は。」
「あれ?今頃気付いた?」
「フフ。じゃね。」
「あぁ。毎度あり。」
「どうも。」

軽く挨拶手を振って
廊下へ出て行く闇医者を
脇息に縋って見送って
折原臨也は身を横たえる

思えばここへ来て10年
売られたその日が母の命日
枕元から引き離されて
そのまま車に押し込まれ
有無を言わさず引き立てられて
四木の前へと放り出された
自分を売った戸籍上の父親が
今はどうしているのかも
全く知らず知りたくもなく

「でも・・・死んでて欲しくは無いよね。」

あのクソな野郎に

「あの世でも遭うなんてまっぴらご免だし。」

死んだら
母親に会えるのだろうかと考える

父親の前では腫れ物に触るように
極力臨也に感心を向けないそぶりだった母は
父親の視線の無いところでは
打って変わって臨也を溺愛し慈しみ
沢山の本を与えて読み書きそろばんを教え
臨也がそれを覚えると抱きしめて喜び

あんたは
あの人の子だからね

戸籍上の父親とは違う男を恋い慕い
あんたはあの人に似てるから

自分と同じ顔立ちで
それは幸せそうに微笑んだ
あたしは
あんたが居てくれて幸せと
あんたが
居てくれるから
生きてるの





「・・・・・・可哀想な女。」





折原臨也は思い出す
自分なんかが
居てくれて
ただそれだけであんなにも

幸せだった

微笑んだひと




「俺には」




幸せなんて




「・・・・・・・解んないな。」




だから俺は
全人類の愛と平和を願うのだ

折原臨也はクスリと笑う

だってそれしか
無いと思うから

「もし」

本当に
神さまなんてものが居るなら
どうか全員幸せにしてみりゃいい


「そうすりゃ俺にも」

幸せ
って奴が

「解る時が来るんだと思うからさぁ?」





フフフと笑う臨也の耳に
今日も廊下から響くのは
客を迎える少年達の
媚びた笑いと
旦那のダミ声




こんな世界




幸せなんか




「何処に」




あるって言うんだろうね?






夏の始まり
夕闇に
ひぐらし啼いて
密やかに
今日も苦界の
帳が開き

一夜の夢の
始まり始まり




フフと笑って
俯して




唇かみ締め
血の滲むほど
布団の端を
握りしめ
身体丸めて



じっと




堪えた




泣きたいのだと知らぬまま




ただ
衝動を




押し込めた