喧嘩した日
恋人といっても、異性ではなく同性だったけど...それが気にならない程彼を愛していて...。
でも、平凡を素で表したような僕にはとても告白なんて出来なくて、このまま片思いで終わるんだろうなぁと思っていたのだけど、そんな彼---臨也さんに逆に告白され、紆余曲折の末今では新羅さんとセルティさん並の恋人になっていた。
恋人同士になって今日で1か月。
折原臨也という人物を知る人なら別人だろう?!と目を向くほど僕ををとても大切にしてくれて、喧嘩らしい喧嘩など一切せずにここまできていたのだけど...
「臨也さんなんて大嫌いです!!僕といるより静雄さんと一緒にいた方がいいんでしょう!!」
「はぁ!?本気で言ってるわけ?...あきれてものが言えないね...」
大げさに肩を窄めて見せた臨也さんにさらにカチンとした。
事の始まりは2時間前。
僕のテスト期間と臨也さんの仕事が忙しかったのが原因で、1週間ぶりにデートすることが決まり池袋の町をぶらつき始めた時、運悪く静雄さんに見つかってそのまま戦争に突入してしまったのだ。
そう。
手持無沙汰のままに2時間もその戦争をぼーっと見続けていたのだ。
(折角久しぶりにデート出来たっていうのに...臨也さんってば僕を気にしてくれてるわけでもなくずっと静雄さんばっかり...)
その時、僕は気づいてしまった。
(あれ?もしかして2時間も静雄さんにしか視線いってない?)
それに気が付いた瞬間、ズキズキと痛み出す胸を思わず抑えた。
(もしかして...僕といるより静雄さんと一緒にいる方が好きなんじゃ...)
そう思った瞬間、僕は持っていたカバンを臨也さんに向けて投げつけた。
「うわっ!!な、何?!!」
「はぁ?!!」
僕が投げたカバンは、まさか静雄さん以外から飛んでくるとは思いもしていなかったであろう臨也さんに命中した。
投げるところをばっちり見られた静雄さんも、信じられないという風に大声を出すと、そのまま持ち上げていたコンビニのごみ箱を落とした。
「ちょ、ちょっと帝人君どうしたの?あ...もしかして待たせたの怒っちゃった?ごめんね!静ちゃん殺してすぐにデート再開するからね!!」
(この期に及んで、まだ静雄さんと一緒にいたいんだ!!!)
臨也さんの一言にさらにカチンときた僕は、今度は静雄さんが壊した自販機から飛び出し、転がっていたジュースを手に持ち思いっきり臨也さんに向かって投げつけた。
...まぁ、今度は避けられたけど...
そして初めのセリフに戻るのである...。
「あきれてものが言えないのは僕の方です!!いい年した大人が他人の迷惑考えずに...!!」
「...へぇ。帝人君馬鹿な事言い始めたと思ったら今度は説教?いつからそんなに偉くなったの?」
「...っ!!臨也さん大っ嫌いです!!」
「っ!さっきからそれしか言えないの?ボキャブラリーが貧困なんじゃない?」
思わず涙が浮かんできて、それでもキッっと臨也さんを睨み付けてやると、なぜか臨也さんが焦りだして何かしゃべろうと口を開いた瞬間。
臨也さんではなく、忘れられつつあったもう一人の声だった。
「あ...その、なぁ。竜ヶ峰...。あー。なんかすまねぇ。その、よくはわかってねぇんだが...」
(すっかり静雄さんの存在忘れてた...。でも、今はそれよりも...)
「気にしないでください。それでもって、今は黙っててくれますか?」
「静ちゃんは黙っててくれる?」
合わせたわけではないけれども、臨也さんと綺麗にセリフが被った。そのことで静雄さんが目に見えて沈んでしまったけれども、今はそれどころじゃないし。
「僕もう帰ります。臨也さんなんかと一緒にいたくありません」
「それは俺のセリフだよ。帝人君の顔なんかみたくないからね。貴重な時間を帝人君で潰すなんてもったいないもの」
お互いフンッと背中合わせになり、僕は自宅。臨也さんは新宿の方へ向かって歩き出した。
心の中は泣きすぎて溺れてしまいそう...____________