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静かなる…

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キィ、と彼の部屋の戸を開くと、部屋には静寂がしんと広がっていた。
静寂を壊さないように用心して、そっと彼が横たわっているベッドへと近づく。
彼はベッドの上で背中を丸くしており、彼の身体を包んだ白いシャツから白い肌が覗いている。
特徴的な彼の紫の髪はその白く細い首筋を伝い、マットレスに零れている。
更にベッドにいる彼は穏やかな寝息を立て、規則的に肩を上下させていた。
「風邪、ひくぞ。」
「んー。」
明らかにそれは返事ではなくて、彼は煩わしそうに一つ唸って更に丸くなるように身体を蠢かせる。
「…、」
スッと首筋を掌でなぞると心なしか熱を持っていて、その掌を無意識に頬へと滑らせる。
もう遅かったか…、と一つ溜息をついた。
掌で撫でた彼は、やっと覚醒したのか身体を動かしたので、
自分がしていたことに今更気がついて手を体温の少し高いぬくもりから離す。
「んんー…、」
彼は少し身体を起こして、虚ろな目でこちらを見上げてくる。
「どうした?」
「いや……。」
用件は綺羅星関係か仕事か、と思っているような事務的かつプライベートの気だるげな返答が当然のごとく返ってきて、
どちらでもないことを口に出すことが憚られてしまう。
けれど、他に言うことも特に思い当たらず、やむを得ず伝える。
「…少し…熱いと思って。」
「俺が?」
「あぁ。」
不思議そうに少し目を開いて、首を傾げて訊くので、律義に返答してやる。
上に掛けるものと薬でも持ってきてやるか、と片足を踏み出すと、ぐっと手首を掴まれてベッドのマットレスの上に座らされる。
「薬を…、」
そう理由を言い終わる前に彼は柔らかな唇で俺の口を塞いでしまう。
その唇をゆっくりと離してから、彼はふわりと妖しげに微笑んで
「汗でもかけば治るんじゃない、かな。」
と、至極甘ったるい声音で俺に囁いた。
いつの間にか彼の掌が俺の髪を撫でるような形で添えられていて、彼の目がじっと俺を捕らえていた。
いつかの鳥籠の中で歌っていた少女を見ていた彼の目が、今は更に燻った熱を纏って俺を見ている。
「…。」
「相手シてくれるんだろう?」
求めてしまったものを全て見透かしているようなそういう目で不敵に彼は笑って、
静かにそして、ゆるやかに俺を熱へと堕としていく―…。
作品名:静かなる… 作家名:朱鳥