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つがいのたがい

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静雄の世界は帝人がいないと真っ白だった。


幼い頃の静雄にはあまりに人がそばに寄りつかないために自然と己の片割れや、家族だけが自分の世界であり、それに干渉してくるものたちは皆どこか自分に怯えていてとても気持ちのいいものではない。
だから静雄は中学に上がる頃には、すでに周囲と自分との線引きを異常なまでに太く引いていた。


その中でも、特に片割れの帝人がそばにいないとその線は広く、太く、厚く広がる。あまりに離れている期間が長いと、色さえも失ってしまうかのように目に生気が無くなってしまい、最終的には暴れ出す。


静雄にとって、帝人は鮮やかな色のついた筆先で、自分は真白のキャンパスのようだった。それは筆がなければ、ただ白のまま、そのまま劣化していくものに過ぎない。


鮮やかな筆先を彩る色は静雄にとって羨ましいものであったけれど、それと同時に限りなく憎いものでもあった。帝人は優しいから、自分の色を瞬く間に変えて相手に合わせてしまうから、そのまま静雄を彩ってしまうから。


帝人自身がきちんと向かい合って、その深い青に自分を彩ってくれるなら映してくれるならば至福だ。でも、他人の話をしたり影響を受けた帝人はとても嫌だった。帝人が嫌なわけではない。干渉を受けた帝人は己の半身なのだ。
問題はその干渉源。誰であろうと静雄は帝人が他の話をする度に不機嫌になった。

他人の影響を受けないで育つ人間はいないと理解はしていても、だ。

簡単に言えば、熾烈な独占欲である。
その感情の名前は静雄は知らない。ただいつものように求めるだけだ。
その感情を帝人は向けられているから知っている。けれどいつものように色を与えるだけだ。




 部屋の扉を開ければ、そこには具合が悪そうな帝人が身を起こしている。
静雄は足から冷水に浸かったような気味の悪い感触に襲われながら、鞄を放り投げて帝人の元へ急ぐ。今日は一日特に気分が悪かった。早く帰りたくて仕方なかった。


「帝人、帝人・・・大丈夫か、帝人」


手を握る。手加減を最大限にそっと包むが、どうすればいいだろう、不安でたまらなくて握り込んでしまいそうだった。折ってしまいそうだった。
額に帝人の手を当てて顔も合わせないまま、静雄は俯く。

「もう心配性だね、静雄」

優しい声が降ってきて、そこでようやく静雄は今日初めて息を許された気がした。
自分が握っている手ではない、手が静雄の頭を撫でる。数回往復したぬくもりはそっと静雄から離れようとする。

「そりゃ、心配、する」

歯ぎしりをして途切れ途切れに言えば、帝人は離しかけた手を戻した。
そして、そっか、と短く呟くと顔を上げてと促した。
恐る恐る顔を上げれば、顔色はやや悪いもののいつもの帝人の笑顔があった。


「静雄、ありがとう」

「・・・ん」

どちらからともなく、緩く抱きしめる。
暖かい体、同じ血と遺伝子が流れて、違う鼓動が刻まれている。
もとはひとつであったのなら、どうして俺たちはふたつに別れてしまったんだろう。恨むでもなく、ただ純粋に静雄はそう思った。


「はああ、静雄はあったかいね」

「帝人もあったかい」

「そうかなあ」

「熱、まだあんのか」

「分かんない。幽がね、確か白桃のゼリー買ってきてくれたのは覚えてるんだけど・・・そこから記憶が無くて」

「・・・それ、寝てたってことだろ・・・」

「あ、あはは。うん、そうかな」


あきれ気味にため息をつけば、帝人はごめんね、と苦笑した。
本当に大丈夫そうな帝人の様子に心底安堵して、静雄は帝人の肩口に顔を埋める。薄い皮膚の下に自分と同じものが流れている。別に今では何も感じないが、昔は本当に流れているのか知りたくてよく噛んだものだった。痛そうに顔をゆがめる帝人に何回謝って、何回いいよ、と柔らかく言われたものか。


今となっては不甲斐ないが、その頃の静雄は帝人が自分と同じだというのが到底信じられなかった。こんなに頼りない存在が自分と同じなはずがない。同じでいいはずがない。それは今でも思っている。
自責にも似た、後悔のような感情は同じという言葉をいつしか静雄から遠ざけていた。同じだということは、帝人は化物だということだから。帝人は化物ではなく、ちゃんと人間なのだ。自分とは違う。


「静雄、今日は何も無かった?」

「特に何もねぇよ。授業なんざどうでもいい。それよか、早く治せ」

「うん」


けれど、静雄がそのような違いの言葉を、ほんの少し囁くだけでも帝人は酷く激昂する。誰がそんなこと言ったの、と怒る。静雄は僕の半分なんだから、僕だって化物なんだ、と泣く。人間の帝人と化物の静雄。他人はその違いを哀れそうに指摘するけれど、その度に帝人は僕も化物なんです、静雄と一緒なんですと言ってくれる。
その言葉は静雄を今も昔も救っていた。


「あー・・ごめん、静雄、携帯取ってくれる?」

「おう」

「うわっちゃあ」

「どうした」

「ええと、うーん。寝てる間にいっぱい着信が・・・」


その言葉に静雄は不機嫌になった。
今までも気をつけていたことなのに帝人は、はっとした。


「あ、ううん、なんでもない」

「なんでもなくねえだろ。早くすませろ」


帝人には自分だけでいいと思っている。
だから帝人への他人の干渉を酷く静雄は嫌った。

帝人だって、自分には静雄だけでいいと思っている。
でもそれだけでは現実が苦しくなるだけだと、様々なことを理解しているから周りに味方を作っている。静雄の思いを知りながらも、そうしているのは心の底で自分に強い独占欲を表す静雄を愛しく思っている所為もあったが。


「うん、・・・ごめんね」

「・・・おぉ」


帝人のごめんねはとんでもなく強いな、とふて腐れた金色の片割れは思った。
あの頼りなさげに下がった眉と本当に仕方なさそうに言われれば、何でも許してやりたくなる。ぐしゃぐしゃに頭をかき回して抱きしめたくなる。

カチカチ、と片手で携帯を操作する帝人の横に潜り込んで、静雄は帝人の胸に頭を寄せた。優しい手で帝人が頭を撫でてくれる。これだけでいい。側にいる度に強まる感情の名前を知らない静雄は、名など知らなくても帝人が側にいてくれさえすればそれだけで己は良いのだ、と知っている。


色んな事を知らなくたって、一番自分にとって重要なことを分かっているから静雄は大事なものは離したりなどしないのだった。
作品名:つがいのたがい 作家名:高良