生誤問題と僕のデミゴッド
その指も、目も、肌も、骨も、肉も、血も、唇も、ほんとは最初はぼくので、ぼくのはきみので。似てないとこは数えきれないくらいあるけど、でもそれすら、類似性を強めるスパイスにしかならないくらいに、ぼくらは似通い過ぎていた。
だから、ぼくらが、ふれあったのは、当然の成り行きだったんだろう。イヴがアダムに戻りたがったように。遺伝子を確かめ合うように。指先からくっついて融け合うことを願いながらぼくは。
「僕はちょっとうれしいんだ」
「うん?」
「僕と君が、――だったなんてさ。同じくらい戸惑ってるけど」
「ああ」
「僕はずっと一人だったから」
うそ。
「…ワコがいたじゃない」
「家族はいないようなものさ」
「ああ…」
やめて。
「この場合どっちがお兄さんなのかな」
「君じゃない?」
「なんで」
「何となく」
そうじゃなきゃ。
「兄さんって呼んでみる?」
「嫌だよ…大して変わらないのに」
「冗談」
「どうだか」
「君はさ、嬉しくない?」
「え」
嬉しいわけが。
「………嬉しいよ」
「そう」
【ほんとうにかわいそうなことだけど、しようがないことなの。ごめんね。ゆるしてね。あきらめてね。あなたは、要らないこなの。ごめんねさよなら。うらまないでね。】
ぼくだってさ、嬉しかったさ最初は。
なんて偶然!はたまた必然?天文学的な確率で出逢えた。それって、すごい。奇跡だ。感動した。
ぼくがきみの*で、きみがぼくの*だなんて。
飛び上がりそうなくらいの喜びを抱えて、しかしぼくは何故か飛び上がれなかった。…どうもしっくりこないのだ。喜ばしいと思っているのに、どこかしっくりはまらない。どうして?なんで?なのに君の顔を見た途端。
(ああ、凄く)
「僕ら」
(やめて)
「双子なんだって」
(いやだ、なあ。)
「好きだよ」
「…なにが?」
「君が」
「……ありがとう」
「冗談」
「…あーうん」
ですよねー。
…ああ、もう。
(嬉しいわけが、ないじゃんねえ?)
双子だとか言う僕らにだって、兄弟はある。たったちょっとの時間の違いで→一生が分けられる。つまり僕は負けたのだ。生まれる前から負けていた。みたいな(笑)
愛すべき僕のたった一人の鈍いお兄ちゃんは、気付いてもいない。君の存在それが、徹底的に僕を打ちのめすものだなんて、さ。
【二人も要らなかったの。
跡継ぎは一人でいいの。
双子なんて、不吉よね。
だから、ごめんね?】
頭で解ってても、感情が裏切る。何もかも呑み込んで、今までみたいに君と居たい僕は、君が羨ましくて羨ましくて妬ましくて妬ましくて辛くて辛くてしょうがない僕よりずっとずっと弱い。
片やシンドウ家のぼっちゃまとただの僕。もしかしたら逆だったかもしれない関係。
別に家柄とかが羨ましい訳じゃなくて、ただ、僕が、すてごだと言う事実が、憎くて、でもそれを少なからず、君に代わってほしかった僕はもっともっと、憎くて、でも僕はやっぱり君がすきで、すきでしょうがないから、君に触れたくてしょうがないから、君に戻りたくて僕は僕になりたくて、君に触れる。
相反する感情で君を汚すのは凄く気持ちよくて、でも凄くむかむかして、僕は吐きそうになりながら君にキスをする。不恰好に体を繋げたところで君に戻れはしないと解っていても、君が好きで。触れて。君が笑うことに許されたような気持ちになる。
僕は何に許されたいの?だれに?きみに?ぼくに?おとうさんに?おかあさんに?せかいに?
「好きなんだ」
「何が?」
「君が」
「そっか」
「………ごめん。冗談。忘れて」
「そう?」
笑うな。
僕の触れたところから君が汚れて、君と僕の境界が曖昧になってしまえばいい。もともと一人だったんだから、同じ遺伝子を抱いていたんだから、指と指から、唇と唇から、舌先と舌先からくっついて混じり合ってしまえば僕は君を、
「好きだよ」
「…………」
「どうかした?」
「………冗談?」
「それこそ冗談」
「えっ」
「つまり君は僕を、好きでもない相手とでもあんなことするようなふしだらな奴だと思ってるわけ」
「…え、えーいやいやまさかそんなわけは」
「心外だ」
「わーごめんごめん!ちょっと疑ってみたくなったわけで別にそんなことは…」
「どうだか」
「…すいませんでした」
「良し」
僕の半身を本当の意味で、愛せるんじゃないかと。
作品名:生誤問題と僕のデミゴッド 作家名:みざき