愛とは、
僕の恋愛対象は同性だ。そう自覚したのは中学を入ってすぐだ。しかも好みは一癖も二癖も有りそうな大人の男性。それでも自分の嗜好に悲観も絶望も無かった。ただ親には孫の顔見せてあげられないなぁとは思った。ついでに恋愛には苦労しそうと思ったけども、意外とトラブルや修羅場は少なかった。今のところ。というか勝手に相手が寄ってきて、抱かれて付き合って、時が経てば別れる。普通じゃない恋愛の割にはあっさりとした出会いと別れ。その繰り返しだ。おかげで経験だけは増えている。どうやら自分にはこう男を引き寄せるようなフェロモンが出てる、らしい。4度目の相手に言われた事だ。誘蛾灯だと称されもした。その時は半信半疑だったけれど、抱かれる相手が増えるたびに自覚せざるえなかった。だからと言って制御できる事でも無いし、元来人見知りな自分は相手から来てくれる方が都合が良かった。幸い、今のところ変な相手には捕まっていないし。まあつまりは、こんな性癖を持って歪んだ嗜好を持つ帝人を愛してくれるのなら、そこに付随する理由などどうだっていいのだ。
「だから抵抗しないわけ?」
帝人を組み敷く相手はそう言って不機嫌そうに顔を歪めた。綺麗な顔が台無しだなと思いながらも、帝人はため息を吐いた。
「だって拒む理由も無いんです」
「好きでも無いのに許すんだ」
「嫌いでもありませんから」
貴方も、そう言えば彼は一瞬だけ眉を顰めて嘲笑った。
「とんだ淫乱な子だね」
嘲りに帝人は瞼を伏せる。傷付いたからじゃない。ただ諦めたからだ。帝人は何時だって受け入れる側だったから、受け入れられる事など知らないのだ。思いにも、想いにも。自覚した時からずっと。
「僕は、僕を愛してくれる人を愛します。嘘でも、偽物でも、一時の事でも。愛してくれるなら、僕は受け入れるだけです」
「・・・・愛さなくなったら?」
瞼を押し上げる。顔を上げればキスさえできる距離にある、美しい顔にはもう嘲りの笑みも表情も無かった。そんな彼に、帝人は微笑った。何時だったか、愛した相手が「君は壊れてるんだね」と呟いた微笑みで。
「終わりです」
愛にも恋にも全部全部、さよならするだけですよ。
帝人は自分の愛が普通じゃない事を知っている。戻れない事も戻らない事も知っている。だからその愛を、その生き方を、受け入れるしかない事も。
始まりも終りも、どうだっていいのだ。帝人にとって大切なことは、愛されているかどうかだけ。
そう、それだけなのだ。
「可哀想な子」
彼はそれだけを言って、帝人の唇をその薄く冷たい唇で覆うように塞いだ。
(じゃあ俺が君をずっと愛し続けたら、君もずっと俺を愛してくれるのかな)