ライカの望んだ世界は綺麗です
気づけば兄さんは俺の知っているだけでも数えきれないほどの嘘をついてきた。嘘をつくな、と俺に言いながらも兄さんは平気で俺に嘘をついてみせた。その嘘はとても器用なもので、嘘が嘘なのかはたまた本当なのか、ときおり兄さん自身でさえきづいていないような気がした
その嘘は大半が俺の為の物であった。俺を喜ばす為に、俺を悲しませない為に、俺を傷つけない為に、ときおり俺をからかう為に。すべてがすべて兄さんは俺の為に嘘をついた。
そのことを幼い俺はよくよく理解していたし、自分自身兄さんの嘘をとても愛していたのだ。
年を取るにつれ、兄さんの嘘を俺がよく理解するようになってからも、兄さんは懲りず嘘をついた。どんなに飽きれても俺の為に嘘をついた。子供ではなくなった自分には、その嘘に意味は失われていても、それでも俺は兄さんの嘘を信じた。黙って首をたてに振ればいいだけのことだから、そうすれば、兄さんは笑っていられるのだ。
兄さんが言う、可愛い自分でいる為に、その大義名分は今では何処か共犯めいていたように思える。
それも今では行き場を失い、なんの意味も持てずに床に横たわっているのだけれど。
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20110201 ライカの望んだ世界は綺麗です
作品名:ライカの望んだ世界は綺麗です 作家名:エン