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できそこないのピーターパン 【ラヴコレ サンプル】

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「仕事の邪魔だ。帰れ」
「俺は見ているだけだぜ?」

 まるで話にならない。どれだけ厳しく接してもまるで手応えがないのだ。しかも最初はどこか茫洋とした佇まいで黙り込んでいたエースはいつの間にか酷く饒舌な男へと変貌していた。口調は快活で声音は明るく、完全に爽やかな好青年といった様子だ。しかし今の状態が素の彼で先程までは惨劇の余韻で少しおかしくなっていた……と思うにはエースの表情は異様すぎた。人形ですらもっと自然に笑えるのではないかとすら思えてしまうほどだ。それはまるで、罅割れた仮面のように。
 最早ユリウスは苛立ちを隠そうともしていなかった。全身からお前には関わりたくないと拒絶を滲ませている。それでもエースは動じた素振りすら見せない。よほど空気が読めないのかよほど図太いのか、それともその両方か。

「なあ」

 そんな中でのエースからの呼びかけ。ユリウスは当初無視するつもりだった。答えてやる義理などどこにもないし、こういった手合いは肯定的であれ否定的であれ反応を返すこと自体が相手を勢いづかせてしまうのだとユリウスは心得ていた。しかし。

「……あんたも、役持ちなんだよな?」

 直前までと何も変わらない明るい声。だがその中に潜む冷ややかな何かが時計を弄るユリウスの手を止めさせた。何気ない手つきで時計を机に置き、視線を上げる。その先で柘榴の色をした瞳がユリウスを見つめていた。時計ではなく、ユリウスを。
 ユリウスは努めて無表情であろうとした。エースの視線を真っ向から受け止めるのは何故か躊躇われ、そっと目を逸らす。机の上で無残に分解された時計の部品たちが転がっていた。今は物言えぬ彼らが羨ましいと思える。静謐に張り詰めた空気をユリウスはひしひしと感じていた。

「……見れば分かるだろう」

 ユリウスには顔がある。役持ちであると断じるにはそれだけで十分だ。改めて問いかけるまでもない。案の定、エースもあっさりと頷いた。

「そうだな。分かるよ。分かりたくもないのに」

 今度は『何か』ではなかった。あからさまな敵意。一気に室温が数度は下がったような錯覚すらあった。
 表面上は平静を保ちつつも、ユリウスは顔を顰めて舌打ちしたい気分でいっぱいだった。自分の迂闊な判断を内心で密かに悔やむ。役持ちであることもどこか普通でないことも分かっていたのにどうして簡単に自分の領域に入れてしまったのか。
 ここは室内で、扉に近いのはエース。武器を持っているのもエース。そして先刻目にした光景から考えればエースはユリウスよりも強い。おそらくは比べることがおこがましいという程度には。危機は未だ過ぎ去っていないのだという事実をユリウスは悔恨とともに噛み締めた。

「時計。時計、ね」

 不意にユリウスから視線を外したエースは机の上に置かれた時計へと目を向けた。既に修理済みの時計。修理中の時計。修理前の壊れた時計。それらを見つめるエースの瞳からは何の感情も窺えない。

「じゃああんたが葬儀屋さんか。ええと……」
「ユリウス。ユリウス=モンレーだ」

 眉根を寄せて言葉に迷う素振りを見せたエースに対し、ユリウスは短く簡潔に名を告げた。葬儀屋呼ばわりされたことは全く気にならなかった。そもそも時計屋とまともに呼ばれることの方が少ない。職務内容を考えれば忌まわしいものとして厭う人間が多いのも無理はないと、当事者たるユリウスですら思う。
 しかし。

「名前なんてどうでもいい」

 自分で名を問うような振る舞いをしたのに、いざ名前を教えると硬い声で拒絶する。明らかに精神が安定していない。これは想像以上にまずい事態かもしれないとユリウスは唾を呑み込んだ。かと言って無闇に動いて相手を刺激する真似もできず、出方を窺うべくユリウスは沈黙を守った。しかし予想に反してエースの方もそれ以上何かを問いかけてくることもなく黙り込んでしまった。
 チクタク、チクタク。時計の針の音だけが静寂などお構いなしに響いている。
 どのくらいそうしていたのか。結局、何の前触れもなく立ち上がったエースはふらふらと部屋の出口へと向かった。ユリウスはその背中を視線で追う。不思議なことに警戒心は湧いてこなかった。
 無造作に開けられた扉がぎぃと軋む。その音に触発されたかのように、不意にエースが振り返った。ユリウスの視線とエースの視線とが正面から絡み合う。一瞬の交錯。

「俺、あんたみたいな人は大嫌いなんだ。葬儀屋さん」

 ユリウスは何も答えなかった。答えを期待されていないことは重々承知していた。そして今度こそ振り返らずにエースはその場を後にした。石畳を踏みしめる足音がだんだんと遠くなり、消える。
 そうなってようやく自分が息を詰めていたことにユリウスは気付き、一人舌打ちした。
 嫌われることになど慣れているはずなのに、どうしてかエースと名乗った騎士の言葉はなかなか忘れられそうになかった。