消えてく波紋が、ゆらあり
深い水音。
底無しのような深みにまるでどこまでも沈み続けていきそうな、そんな錯覚を覚える程の夥しい地下水が流れ落ちているのが分かる。
水は酷く澄んだもので、ひとたび指を入れればぞくりとするような冷たさ。
不意に流れの無い下流の一端、果ての見えぬ水底から一尾の魚が水面にゆらりと浮かんでくる。病的なまでに青白く、肋骨さえも透けて見えるようなものだ。
喘ぐようにして見苦しく呼吸をすれば、美しい波紋を幾重にも織り成してゆらあり、ゆらりと消えてゆく。
それに揺られて赤い花弁が、細い雄蕊が流浪した。
ゆらあり、ゆらり、
ゆうらり、ゆらり、
波紋は水面に映った僕の顔を歪めていく。
目を閉じて、耳を澄ませば聞こえるのはただただ水音だけ。
これでいい、これがいい。
立てた膝を寄せて、顔を埋めて。
僕は今日も一人、地下の片隅にいる。
消えてく波紋が、ゆらあり
(夥しい水は僕を洗ってゆく)(残るのは、穢れなき孤独な僕一人)
:)
ずっと短編のターンです。
作品名:消えてく波紋が、ゆらあり 作家名:沁(しみる)