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ロンリー・ワンルーム・ディスコ

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数日前に俺はイギリスの家を飛び出してきた。あの家から持ち去ったのはトランク一つ。中身は洋服と下着数着分と友人トマス・ペインが俺に贈ってくれた本一冊のみ。新しく建てた俺の家はイギリスの家よりも大きかったけど、辺りは見渡す限りの荒野だった。ビーバーからグリズリーまで様々な動物が暮らしているこの地での生活は、それはもうスリリングなんだぞ。庭先で、昼食の最後に食べようと思っていた林檎をツバメトビが銜えて飛び立ってしまった時は、呆気に取られたものさ。
俺は新しいこの家をすぐに気に入った。そこはとても静かで、何より、イギリスはこの場所を知らなかった。不味いお菓子を持って唐突に訪問される心配もない。彼には俺の新しい家の所在を教えなかった。言わば秘密基地のようなものだ。仮に教えていたとしても、絶対に自分からは来ないだろうけど。彼はそういう陰気なやつなのさ。
俺は着たい服を着た。寝たい時に寝て、好きなものを食べた。好きなだけ食べた。小さな俺の友人であるシマリスがエビフライみたいな松傘の食べかすを窓辺に置いていってくれたときは、その可愛らしいプレゼントに声をあげて笑った。楽しかった。一人きりの家を広く感じることはあっても、寂しいだなんて、夢にだって思わなかった。自由な生活は、実に素晴らしいものだった。
夜はアラスカの白熊も眠りから目覚めるほど寒くなることがある。そんな日はまず温かいコーヒーを一杯用意する。それから毛布を何枚も重ねて包まると、暖炉の前に居座って薪をくべた。炎が髪に燃え移りそうなほど顔を近づけていると、ようやく鼻の頭に血が流れていく感覚が戻って来た。海の向こうはどうだろう。こちらほど寒くはあるまい。安眠を得たイギリスが目に浮かぶ。こっちは今にも凍え死にそうな思いをしているって言うのにさ!なんだか腹が立ってくるぞ。それでも俺はここが好きだった。なぜならこの地は自由と平等を愛する俺の国だから。土地も、動物も植物も、国民の皆も、ヒーローの俺は漏れなく愛した。彼らはみんな家族だった。
あの日、トランク一つでイギリスの地を飛び出した。他の物は全部置いてきた。思い残すことは一つだってない。
なのに実に可笑しな話だけれど、キッチンの戸棚に仕舞ってあるコーヒー豆の瓶の隣には、一杯分の紅茶の葉が入った別の瓶が置いてあるんだ。ご丁寧に彼の目の色と同じ色のカップまで用意して、さ。笑ってしまうだろう?俺はトランクの中に洋服と下着数着分と友人トマス・ペインが俺に贈ってくれた本一冊以外に、こんなものを忍ばせていたんだ。このときの自分の真意が、今になってもさっぱり分からない。俺はイギリスにこの家に来てほしいんだろうか。この場所を見つけてほしいんだろうか。
俺はきっとすぐに大きくなる。そんな予感がする。そうしたらイギリスをこの秘密基地に招いてやらないこともないかな、と思う。いつになるかはわからないけどさ。大きくなった俺を見て唖然とするイギリス相手に、こう言いながら紅茶をふるまってやるんだ。「そうそう、君の国で昔流行ったっていう紅茶占いの話を聞いてね。君がいつくたばるかを占ってもらおうと用意しておいた茶葉とカップなんだ!」勿論、君は怒り狂うだろうね。でもさ、知ってたかい?君ってば鈍感だから気付かなかったろうけど、俺は君に似て、素直じゃないんだぞ。