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右手との上手な付き合い方

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時々、いなくなった右手のことを考える。俺はプリンとかあんまり好きじゃないし、そもそも甘いものが嫌いで、センコも同じように甘い物は嫌いだろうと思っていたら、プリンとチョコで従順なペットに成り果てていた。安い。安すぎるモンスター。プリンっつったらどんなに馬鹿みたいに高級なやつでも精々四桁の数字にすぎない金額だろ。チョコだってそうだ。なのにあの女がセンコに食わせたものは百円とちょっとで手に入れられるような安物プリンだった。おまけでコンビニで買った袋詰めのチョコのうちのたったの一粒二粒。今になって思えば、センコの奴、相当腹が減っていたのかもしれない。だったらそう言えよ。喋ったことなんて、ないけどさ。分かるかっての。だってお前、車も飛行機も旨そうに食ってたじゃん。それなのにプリン。プリンて。プリンはねーよ。ありえねー。馬鹿でかい図体しているくせに。プリン。よくよく思い返せば、あの女、俺にプリンを渡していたじゃねえか。それをお前にあげたのは俺だぞ。なら恩義は俺にあるんじゃねーの。分かってんのかそこら辺。なあ。センコ。……分かってないから俺の右手を食ったんだろうけど。

面倒なことがあった。それは例えば登校途中、甘い匂いのするケーキ屋の前を通ったときなんかに起こる。右手が暴れ出す。「食べたい」「食べたい」と暴れ出す。右手に引っ張られて店の中に入ってしまうこともあるし、一番困ったケースなんかだと右手が消化器になって白い粉を吹いた。そんな騒ぎになってしまうと買わざるを得なくなる。おかげで俺の財布の中はいつだって空っぽだ。なけなしの小銭がジャラジャラ鳴る。

さらに面倒なことがあった。ケーキ屋の前を通るとセンコがうるさいので人気のないような道ばかりを選んでいたらあの男に会ってしまった。夏なのに黒いカーディガンを着ているのはこいつくらいなので、後姿でもすぐに分かる。しかとしたら俺の身体が上下逆さまに反転した。見えないけど分かる。紫の足のあいつが近くにいる。「よお、元気?」奴は手をひらひらと振りながら笑っていた。何が可笑しいんだよ。いや、可笑しいか。されるがままの俺。センコは文字通り手の先、すぐ近くにいるのに。こんな時でも俺の右手はピクリとも動かない。頭に血が上る。吐きそうになる。センコ。お前この状況分かってる?一応俺はお前の元パートナーだろ。その元パートナーがピンチなんだぞ、おい。お前ってばそんなに俺のこと憎んでたわけ?飼い犬に手を噛まれるとは正にこういう状況のことを言うんだろう。それなりに気に掛けながら育ててきたつもりだったんだけどな。俺にはプリンとチョコが足りなかった。百円玉三枚もあれば十分手に入れられるようなやつが。それだけなんだ。笑える。ほんと。

「ケイがね、ここのプリンがおいしいって言うからさ。あっケイってうちのクラスの子のことなんだけど。知ってる?」
目の前に並べられる二つのプリン。またプリン。この女は意味もなく俺の前に現れては何かしら食べ物をセンコに与えた。俺はセンコの口の中にプリンが吸い込まれていく様子を黙って見ていた。センコはもう俺のじゃないから文句を言う権利もない。言ったところでこいつは言うこと聞かないし。俺の右手なのに。
「センコってさ、食べてるときのかんじがかわいいよね。眉間に皺寄せながら食べるんだよ。最初は、美味しくないのかなって思ってたけど、そうじゃないみたい。センコの食べているところを見るのが好きでお菓子を買ってくるのはいいんだけど、お小遣いがどんどんなくなっちゃうのが困るんだよねえ。私って親馬鹿なのかなあ。もしも自分に子どもが生まれてきたらこんな風になっちゃうんだろうなあ。えへへ」
あ、やばい。俺は今、こいつの首を締めたいと思ってる。昨日何があったかも知らずプリンを食べているこの女を、この呑気そうな表情を、どうにかしてやりたい、絞め殺してやりたいと思っている。それを、右手は許さない。センコは絶対に許さない。あわよくば俺を丸ごと食べてしまうだろう。あの大きな口で、俺を。一瞬浮かんだセンコの目はまるで食べ物を見るときと同じ目で俺を見ている。なんて目をしてるんだ、お前。俺の右手なのに。俺が飼い主だったのに。そんな目で見るなよ。今、俺の右手なんだぞ。俺の右手。お前がいたらあの女も黒カーディガンの男も絞め殺すくらい、訳ないのに。言うこと聞けよ、ばかやろう。