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月面世界の真ん中で

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まだ肌寒さの残る季節。武州の田舎での話だ。

つい先日は雪が積もり、近藤さんと総悟が雪だるまを作っていた。適当に雪を固めてバケツを乗っけただけの、どう見ても不格好な雪だるまだったが、あの二人らしくて良いと思った。
そんな不格好な雪だるまも溶けて姿形もなくなったころ、俺達の元へ江戸から旗揚げの話しが上がった。
廃刀令のこの時代、剣を持ち自分の居場所が作れるまたとない機会だ。道場のみんなと話し合い、近藤さんを筆頭にし旗を上げることに決まった。

ただ、ひとつだけ問題があった。

俺達はとうに成人したから良い。だが、総悟はまだ十を過ぎて間もない。剣術が誰よりも長けているのは周知の事実だが、そんな幼い子供に竹刀ではなく真剣を持たせて人を斬らせる、ということに多少ながら嫌悪を感じる。

「やい土方。ちょっと来い」

道場の練習場で休んでいたところを総悟に捕まった。俺も話しがあるからちょうどいい。
道場の裏庭に連れられて数分。総悟はうつむいたまま袴の裾を見つめる。飯時にはまだ遠い時間だ。

「…近藤さんから旗揚げの話しを聞きやした。」

近藤さんも胸が痛かろうと俺は思った。

「どうして俺は旗揚げの仲間の中に入ってないんでぃ!俺だって…近藤さんの役に立ちたいでさぁ!どうせお前がけしかけたんだろぃ!土方!」

着流しの胸ぐらを掴んでくるこの分からず屋に何と説明すれば良いものか。総悟の言う通り、旗揚げの仲間から総悟を外すように近藤さんにけしかけたのは俺だ。子供には責任が重すぎる。まだこいつには見るべきもの、やるべきことがたくさんあるだろう。その歳で縛りつけるようなことは、…俺がしたくない。

「俺を舐めてもらっちゃ困りまさぁ…。近藤さんのためなら、真剣で人を斬るくれぇの覚悟はとっくに出来てますぜ」

袂に隠していたのだろう。細身の短刀を出し、刃先を俺の首筋に当てやがった。ひんやりとした刃物の硬度を感じながら、あまりにも無駄のない動きで隙を突かれた自分の不甲斐なさを呪った。
「俺に斬りかかるのは日常茶飯事だろうが。俺以外の人間もこう簡単に貶められると思ってんのか。ガキが」
「そうだ、あんたに斬りかかるのは日常茶飯事かもしれねぇ。でもこのまま力を入れてすっぱ抜いてあんたの首を跳ねたらそれも美しい思い出にならぁ」
「…したけりゃすればいい。だがそんなことをすれば隊には入れんままだろうよ。近藤さんも、お前を隊には入れたくないとこぼしていたからな」

俺の言葉に総悟は眉を歪ませた。俺も総悟も、近藤さんを一番に考えている。そんな人から「隊には入れたくない」と言われたら躊躇するだろう。ましてや俺が右腕的ポジションに入れられていたら更に複雑な思いとなることだろう。俺が総悟の立場ならいたたまれない。

「隊に入るとなれば必然的にお前は俺の『部下』になるんだぞ。…良いのかよ、『沖田先輩』は」

「めちゃくちゃ嫌だね。嫌だけど…近藤さんは別でさぁ」

短刀を袂に仕舞いながら俺を睨みつける。微かに痛みを感じて首筋を触ってみると少しだけ切れて血が滲んだ。

「『先輩』としてお前が近藤さんに失礼なことしないよう見張るんでさぁ」

いつもの偉そうな笑みを浮かべて総悟は俺を指差した。もう後戻りなんか出来ない。無邪気に笑いながら雪だるまを作っていた平和な情景も、過去になってしまうのだろう。いつまでも子供であって欲しかったとも、思わずにいられない。

「そうと決まれば早く近藤さんに説得しやがれ下僕。俺様がいかに有能な使い手であるか切々と語れよ。」
「下僕って言ったろ!今下僕って言ったろ!」


総悟に引きずられながら俺はこれからもまた一緒にいられることに少しだけ、少しだけ気持ちが綻んだ。




END.
作品名:月面世界の真ん中で 作家名:お茶