一と二分の一
「…そうだな」
南イタリアのとある別荘でオレと菊は二人っきりで休暇を楽しんでいた。
菊はいつものキモノではなくラフな格好をしている。
オレは特に変わりない。
「お前こそなんでオレと『休暇を過ごしたい』なんて言ったんだよ?
オレん家はフェリシアーノんとこより治安悪いし…おかしいぞ、お前」
「オカシイ…ですか…」
しょぼんとする細い肩。
悪いこと言っちまったかな…と思ったとき菊が口を開いた。
「ちょっと相談したいことがあって…」
「相談?」
いきなりの事に面食らってしまう。
オレはどちらかというと相談する側だ。
フェリシアーノより優柔不断だし、色々と力不足だし、アントーニョがいないと何にもできないし…
「ダメでしょうか?」
「いやいやいやいやいや!! 菊の頼みだし! いやってワケじゃねぇって!
それで…内容は?」
ジャガイモ野郎に何かを相談するとき
奴はかならず『それで、内容は?』と聞く。
御託はいいから、ということなのか、それとも早く相談に乗ってあげたいからなのか…
オレには関係ないことだけれど。
「あの…フェリシアーノくんのことなのです」
「え? アレ!?」
「アレって…弟さんに何言ってるんですか…」
呆れ気味にため息をつく相手。
「ゴメン…でフェリシアーノと何かあったのか?」
ケンカでもしたのだろうか?
菊とフェリシアーノの性格や行動からするとこの二人が仲違いするようなことはないと思うが…
「実は…モゴモゴ…」
「は?」
唇は動いているので言葉を発していることは確かだけれど
その重要な言葉が聞き取れない。
「…きって…言われて…その…」
「もう一回大きい声でゆっくり言ってくれねーか?」
顔を真っ赤にして俯く菊。
いつもなら可愛いと思うだろうがここまで焦らされるとイライラしてくる。
「大好きって言われて…おでこに…」
「あぁ、キスされたのか」
サラッと菊が言えなかった言葉を口にする。
「わ、私…どうすればいいんでしょうか…」
「お前の気持ちはどうなんだよ? 重要なことはそれだろ?
嫌いなら『やめろ』って言えばいいし、好きなら受け入れればいいんじゃね?」
「…ですよね……やっぱりルートさんにも相談しましたけど、同じですよね…」
「ジャガイモ野郎に先に相談してたのかよ!
んで、お前はどうなんだ!」
「好きです…フェリシアーノくんのこと…」
「んじゃそれでいいじゃねーか」
「でも…私…」
ふわりと風が二人の間を通り抜けた。
「…ロヴィーノくんのことも好きなんです」
明日は髭野郎にでも相談しに行かないとオレの心が容量オーバーしてしまうかもしれない。