深層心理の勝負のゆくえ
そんな誘い文句に一も二もなく頷いた幼馴染とのフルバトル。
今まではジムの中で戦うのは極力避けてきたけれど、最近はどうにもジムが忙しくてシロガネ山に行く頻度が低かった詫びも兼ねているのだから仕方がない。『行けないなら下りてこさせればいい』という逆転の発想を試みるには、トキワジムが一番適した舞台だった。
「・・・・・・それにしても」
結果から言ってしまえばグリーンの敗北で終わってしまったけれど、楽しいバトルではあった。
楽しくは、あったのだ。
後に残る『問題』が、頭痛の種になることを除けば。
「お前とやると、やっぱジムが壊れるんだよなぁ。・・・どうせこうなるだろうとは思ってたっていうか、想像通り過ぎて笑えねーよ」
「このジムの、耐久の問題じゃない?」
「責任転嫁すんなこの野郎」
少し離れたところで勝負の行方を見守っていたジムトレーナー達が、呆れたような顔で笑っているのが見える。
笑いごとじゃねーよ、と怒鳴ってやりたい衝動に抗いながらあちこち崩れてしまった壁を見やって、深々と溜め息を零した。修繕費は、どこから捻出しよう。
「まぁ崩れた壁のことは後回しにするとして、今日うち泊まってくだろ?」
とりあえず一旦ジムの修繕を頭の隅に追いやって、レッドの方へ歩み寄りながら首を傾ぐ。
バトルフィールドの向こう側にしゃがみこんでピカチュウの頭を撫でていた幼馴染は、グリーンの問いに一度顔をあげてこくりと頷いた。
「ん。今から帰るのめんど・・・っ!グリーン!」
「え、なっ!」
酷く焦った表情で勢いよく飛び込んできたレッドに突き飛ばされると同時に、どすっと重たい音が響く。何が起きたのかまるで把握出来ずに呆然としていると、腕の中に倒れ込んできたレッドの背中から瓦礫らしきものがずり落ちた。
あぁあれが音源か、と視界の端に捕えた瓦礫は、恐らく天井だったものの残骸なのだろう。先ほどのバトルで傷付いた、天井の。
「っ・・・グリーン、けが・・・ない?」
よろよろと起き上がりながら首を傾けるレッドが体当たりをしてこなければ、あの瓦礫はグリーンの頭に直撃していたのかもしれない。
意識の片隅でそんな風に現状を分析出来るだけの冷静な回路があるにも関わらず、レッドに言葉を返すことがどうしても出来なかった。
(なんだ、これ)
何が起きているんだ、と悪足掻きのように現実から目を背けようとしている自分がいる。
痛みを堪えながらグリーンの安否を気にしているレッドは、幻なんかじゃないのに。
「リーダー!レッドさんを早く運ばないと・・・!」
「っ!」
遠巻きにレッドとグリーンを眺めていたトレーナー達が大声を出すのを聞いて、ぴしゃりと頬を叩かれたような気がした。咄嗟にレッドの身体を横抱きにして抱え上げると、わっと小さな悲鳴が上がる。
「首、掴まってられるか?すぐ医務室運ぶから、少し我慢してろ」
へいき、と答える声は弱々しく、殆ど吐息に紛れるようにして消えてしまう。瓦礫が当たったであろう箇所に触れないよう細心の注意を払って抱え上げた身体は、呼吸のたびに小さく震えては必死に呼吸を繰り返した。
息をするだけでも、今は苦痛なのだろう。
(くそっ・・・!)
やっぱり室内なんかでやるんじゃなかったとか、そんな後悔は今はどうでもいい。
自分を責めるのも、後でいい。
今はレッドのことだけを考えるべきだ。
そうと分かっているはずなのに、立ち止まりそうになる。命にかかわるようなそんな大怪我ではないのに、余計なことを考えてしまう。
「・・・グリーンが怪我しなくて、よかった」
耳元でそっと吐息に乗せられた言葉に、泣きたくなった。
俺は、お前が怪我をして、くやしいよ
作品名:深層心理の勝負のゆくえ 作家名:つみき