風切羽を切られたの ～SIREN女子でお題～
初日/02時40分51秒
蛇の首谷/折臥ﾉ森
「風切羽を切られたの」
あのね、先生。私化け物から逃げる途中、腕を切られたの。
ちょうど鳥でいう、風切羽の部分よ。
とっても痛かった。そしてなんだか腹も立ったの。
だから私、鳥を捕まえて、風切羽を切ってあげた。
鳥は苦しそうにもがいて飛ぼうとしたけど、うまく飛べなかったわ。
それを見て、私決めたの。
先生の風切羽も切ってあげる。そうすれば、あなたは私のところから飛べなくなるわ。
ねぇ先生、もしそうなったらずっと一緒にいましょうね？
矢倉市子
14時45分29秒
夜見島/夜見島金鉱社宅
｢籠から私を出さないで｣
お願い。私を引きずり出さないで。
今の市子には、自分は人間だと思ってて欲しいの。
だって自分が作られた存在なんて、誰だって知りたくないでしょ？
だから、それを知ってる私は、そのまま市子の中で消えてなくなればいい。
籠の中で私を死なせてください。
そう願っても、堕慧子は私を籠から引きずり出そうとする。
あぁ、ﾀﾞﾒ。市子、思い出しちゃだめよ。
全てを思い出しちゃったら、あなたには殺戮しか残らないわ。
再び、辺りにｻｲﾚﾝが鳴り響く。
岸田百合
05時00分11秒
夜見島/夜見島遊園
｢壊れてなどいないわ！｣
(だって貴方は最初から、)
私、壊れてなんかいないわ!!
だって貴方は最初から、私が利用するって決めてたんですもの。これは本気よ。
スベテハオカアサンノタメ。
お母さんが夢みた世界に行くために、私はあなたを利用したの。
鳩はみんな、あなたの世界に行ったわ。でもみんな、帰ってこなかった。
私がやるしかないのよ。だって私、お母さんのことが大好きだから。
ねぇ、私をよく見て?怖くなんかないわ。
あなたはお母さんと一つになるの。そのための門も開けたじゃないの。
彼は両手を広げて目を閉じた。
さあ、お母さんを目覚めさせて。
私は微笑んで、彼へと一歩踏み出した。
前田知子
第2日/06時06分01秒
刈割/棚田
「必死で言い聞かせる私」
大丈夫。大丈夫だから。
私は震える体を自分で抱いて、必死に言い聞かせた。
求導師様や求導女様とははぐれてしまったけど、私はまだ生きている。幸にも化け物は振り切れた。
教会に行けばきっと、お母さんやお父さんが待っている。私は静かに歩きだした。
歩いていくと、目の前に白い天使様が現れる。それもたくさん。とても綺麗だった。
それになぜか、途中で会った化け物たちが襲ってこないの。
きっと神様が私を守ってくれているんだわ。
そう思った。でもなんか、違うような気もするの。
ううん、それは気のせい。きっと大丈夫。私は絶対、お母さんたちと会えるはずだわ。
教会が見えてくる。私は走りだした。
それにしても、さっきから体がやけに熱いのは何でなんだろう……?
……そうか、お母さんたちに会えるから、きっと興奮してるんだね。
あ!!お母さんとお父さん!!ねぇ、開けてよ!!ここ開けてよ!!
作品名：風切羽を切られたの ～SIREN女子でお題～ 作家名：月 桂樹