弾かれた記憶
01 弾かれた記憶
デボルの歌を聞くと思い出す。
色鮮やかに甦る、君の笑顔。
デボルのギターに合わせ、酒場の小さなステージで歌い踊る美しい君。
この世の生き物とは思えないほどまぶしくて、僕はステージ上の君を見るたびに、何度も目を細めた。
艶やかな唇で歌う曲は、いつだって僕のための恋の歌だった。
大人たちの冷やかしが恥ずかしくて、でもどこか嬉しかったんだ。
デボルのギターが、イニシエノウタを奏でる。君はこの曲が好きだった。
死ぬ間際でさえ、この曲を歌っていたよね。
イニシエノウタのメロディーが、僕の記憶を甘く悲しく弾いていく。
君は今、僕の記憶の中だけで生きている。
記憶の中で奏でる曲に合わせて、今日も僕へ恋の歌をうたってくれる?
僕の記憶が弾かれていく………。