因果応報?
ムカつく奴の後ろ姿を見た。
「静雄ー。そろそろ休憩入んべー?」
トムさんの問いかけにちゃんと答えもせず俺はいつもの様に走り出す。
「ノミ蟲の野郎…っ」
「ちょっおい静雄!」
今一瞬見えた。
アイツの背中が。
側にあったガードレールを引き抜く。
いつもの様に過ごしていた通行人達の日常が今俺がガードレールを引き抜いたから、
いつもの日常が
非日常になる。
奇怪の眼差し。
好奇の眼差し。
恐怖の眼差し。
「いいいいいざあああああああああああやああああああああ!!!!!」
ガードレールが空に飛んでノミ蟲に直撃する。
「ぐはっ!?」
適当に野次馬の中にいた野郎の自転車をひったくって2発目をイザヤに向かって投げる。
自転車を取られた男の叫び声とイザヤの息を呑んだ音と俺の怒号が同時に池袋に響いた。
ひらりと自転車を交わすイザヤはさっきガードレールが直撃したにも関わらずウザいほどに清々しくて。
「いつもいつも池袋に来やがって…」
「やだなあシズちゃんw君が俺を見つけなければ済む話だろう?」
「いつもわざと俺にわかるようにちょろちょろと動き回ってるのは誰だ?ああ?」
「怖いなあシズちゃんは。」
やれやれとジェスチャーをしてウザい顔をするイザヤに俺は思いっ切り殴り掛かる。
また交わされてイライラがピークに達して道路標識に手をかけた瞬間イザヤが
「因果応報だよシズちゃん」
「はあ?」
意味のわからない台詞を言うイザヤに振り返る。
「だから因果応報。前から思ってたんだけどさ、シズちゃんのその馬鹿力きっと前世でシズちゃんが悪いことしたからその報いなんだよ。」
「…意味のわかんねぇ事をほざくんじゃねぇ!」
そう言ってイザヤに標識を投げつける。
目の前が真っ暗になって眩暈がする。
「…いてて…」
「…帰る。」
イザヤに背を向けて歩き出す。
因果応報
俺の大嫌いなこの力。
もし
イザヤの言う通り俺が前世に悪いことをしたんだとすれば。
俺は
「自分を許さねぇ…」
こんな力いらない
こんな力大嫌い
こんな力…
「人を傷つける事しか出来ねぇじゃねぇか…」
路地裏にしゃがみ込んで頭を抱える。
過去の自分は何をしたのだろう?
過去の自分には大切な物はあったのだろうか?
そんな事考えたって仕方がないのに。
ふと頭に感じる人の手の感触。
暖かい 暖かい 人のぬくもり
「何しにきたノミ蟲」
「なんで見てもいないのに俺だってわかるのさ」
「臭せぇから」
「あ、そ。」
ふう、とイザヤがため息をついてその場を離れようとする。
「……」
「…シズちゃん」
「…んだよ」
「…………仕方ないから泣き止むまで居てあげるよ。」
「泣いてねぇしうぜぇしどっか行け。」
「はいはい」
呆れた様に笑って隣に座ったイザヤに。
「ノミ蟲が…っ」
「はいはい泣き虫さん」
イザヤの胸に顔を埋めて。
今だけ。
にやついているだだもれのイザヤの思考回路は無視した。
イザヤが泣かせた。
因果応報と言うのなら
イザヤを好きになったのも
俺への報いなのか。
-因果応報?-
Fin...