雪の華
BSR(ダテチカ)
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奥州も師走に入り段々と寒さが厳しくなってきたとある朝、庭の池の淵で
元親は何かをじっと眺めていた。
「何やってんだ?元親は・・・」
部屋の障子を開けるとこちらに尻を向けるような恰好で池を覗きこむ元親
を見つけて政宗は眉間に皺を寄せた。
「HEY、元親、何やってんだ?」
背後からした政宗の声に元親は振り返る。
「おぅ!政宗、起きたのか、なあ見ろよ氷だぜ!」
まるで子供のように嬉しそうにそう言う元親を呆れたように見ながら、政宗
は言った。
「氷?Ha、氷なんざこの時期珍しくもねえぜ?」
政宗の言葉にそれでも嬉しそうに笑いながら元親は言う。
「ハハハ、そりゃあそうだろうがよ、南国じゃあこんなに早くからは氷は張らねぇ、
しかもよ、見てみろよ!なかなか綺麗じゃぁねぇか」
「?」
元親はまるで宝物を見つけた子供のような顔をしている、政宗は何を見ている
のか気になって庭に降り元親の側まで行った。
池に張った氷はまだ少し薄い、いくら奥州でもまだ厚いものが出来る時期では
ない、だか池全体に薄く張った氷の上には白い雪の結晶がまるで華吹雪のように
舞っていた。
「なぁ、なかなか見れるもんじゃねぇだろ、それにしてもこりゃあ雪か?自然にこう
ゆうふうになるもんなんだなぁ、氷の上の雪の華か俺がよ見つけなかったら誰も
気付かねえうちに昼には融けちまってたんだろう、俺ぁ運がよかったなぁ、なぁ政宗」
たぶん一番先に見つけたのも嬉しかったのであろうが、雪が悪戯に造ったその
花吹雪に喜んでいる元親を政宗は、
「お前ぇの方が綺麗だぜ」
と言って『気味悪いこと言うんじゃねぇ』と言われながら暫く一緒にそれを眺めた。
どれほどそこに居たのか、永いような短かったようなそんな感覚を覚えたころ、
「クション!!」「ハクション!!」
と二人同時にくしゃみをした。
その時、二人の頭に握り飯ほどの大きさの融けかけた雪の玉がぐしゃりと置かれた。
「どわぁぁぁあぁ!!!」「うわぁ冷てぇ!!!!」
二人が同時に飛び上がるとその後ろに怒り顔の小十郎が立っていた。
「この小僧共が、そんな所でいつまで居る気だ、風邪ひくだろおが!!」
自分で雪玉を二人の頭に乗せておきながら、小十郎は二人が朝飯を喰い終わる
間中小言を言い続けた。
次の冬、あの時池で見た雪の華を描かせた反物で政宗が自分と元親に揃いの
着物を作らせて贈ったのはごく小数の人間しか知らない。
「なあ元親、一緒に着て見世物見物にでも行くか?」
政宗がそう言いながら渡す。
「はぁ?そ、そんな恥ずかしい事できるかぁ!」
だが元親はそう言いながらも、その夜の宴席では着てくれたらしい。
成美いわく、
「長曾我部どのは少し照れ臭そうで、可愛・・いや、素敵でした。」
「成美!!元親をじっと見ていいのは俺だけだ!!」
-完-
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