二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

わたしのもとへとアパッシオナート

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 










平和島静雄は天敵である臨也を見ると地の底を這うような怒声を上げながら殴りかかってくる。それは紛れもなく周知の通りだ。
けれど皆が思ってるようにそのまま静雄が怒りを納めないかというと、それには少し語弊があった。もちろん自販機や標識やガードレールや看板や、静雄によって破損される器物が片手で足りなくなることもある。けれど最初の一撃で終わることだっていくらでもあるのだ。
元来静雄は感情の波が激しすぎて、一気に怒りの沸点を超す。そして感情の起伏が激しすぎるために更なる刺激さえなければすぐにそれは冷えてしまうのだ。だから臨也と静雄の喧嘩という言葉で済ますには規模の大きすぎるそれは、臨也が静雄を刺激するかどうかで被害が決まる。











「いィーざァーやァぁあああ!待ちやがれてめぇコラ!」
「ははは、やーだよー」

今日は静雄の怪力によって様々なものが壊されていく日だった。
臨也がひらりと塀を乗り越える際にどこからか引きちぎったであろうフェンスの一部が臨也の耳を掠めて通り過ぎ、ビルの外壁にめり込んだ。あれが直撃したら胴体まっぷたつだったと内心ぞわりとしながら臨也は非常階段を伝って上へと向かう。普通に駆け昇ったのではすぐに追いつかれるのは目に見えているので飛び移ったり短縮しながら逃げる。


いつもながら静雄が投げ、臨也がよけるものがよく他者に当たらないなと思う。
それとも静雄はちゃんと計算しているのだろうか。あれで静雄は自分に喧嘩吹っ掛けてきたわけでもない者たちを傷付けるのを何より恐れている。本人は無意識に違いないが、そんな静雄の本能に近く深いところで制止がかかっているのかもしれない。そう思うと投げる前に臨也に怒声を吐くのは周囲の者たちへの警告のようなものだろう。生憎それは臨也への警告でもある。

つまらない男だ、と思う。あらゆるところで想定外の行動をとり、臨也を楽しませてくれる静雄だけれど、静雄のそんなところだけはつまらない。実にもってつまらない。
静雄は初めて会った頃からずっと、あと少しで完全に踏み越えてしまうのにそれをどうにか堪え続けるところにいる。
さっさと踏み越えてしまえばいいのだ。どうせ静雄は戻って来ることなどできない。踏み越えてしまえば静雄はますます人間から乖離する。そうなったとき静雄という人格がどうなるのか、どれだけ考えても考えたりないくらいに楽しい。

ぞわっと背筋が粟立って臨也は身を屈め、走っていた勢いのままに前転する。先程まで頭のあった位置をコンクリートの塊が通り抜けるのが見えた。少し遅れてコンクリートが廃工場の壁に当たって粉砕する音が聞こえた。




人気がなくなって容赦なくなってきたな、と思う。静雄から逃げるだけならば街中を走るのだが、今日はなんとなく静雄をからかいたくて喧嘩になってしまった。
途中臨也もナイフやガラスの破片や、静雄と違い、軽くて殺傷力の高いものを投げたりしたので、警察を呼ばれるとまずいために人目のないところまで来た。静雄と違って臨也は清廉潔白に生きている身だ。静雄との喧嘩ごときのために前科がつくなどと冗談ではない。
それでも静雄の攻撃が過激になってきたことを考えるとこんな廃工場の方ではなくて裏道に行くべきだったかもしれない。


臨也はすぐ前の細い脇道に入った。臨也の記憶が正しければそこはすぐ行き止まりになっていたはずだ。
曲がってみれば臨也の記憶は正しかった。思わず一度見ただけでも正確に記憶していた自分のすばらしき脳髄を諸手をあげて褒めてやりたい。
けれど今はそんな場合ではない。静雄がすぐ近くまで迫ってきているのを横目で確認し、臨也は壁に向かって大きく一歩踏み込んだ。片足で踏切って跳び、壁を足掛かりにして追い掛けてきた静雄の頭上を体を捻りながら大きく回転する。重力を生かして着地しながら全体重を静雄に向けたナイフに込めた。しかしそれは静雄が咄嗟に出したてのひらに受け止められてしまう。

「っんとに、どういう皮膚してんのシズちゃん、どんだけ細胞密集してんの」

ぎぎ、と静雄の手に食い込んだナイフに力を込めたまま、それでも1cmと刺さらないてのひらに着地した臨也は苛立ちながら問う。静雄の手は臨也が斜めに力をかけたから少しさけてはいるけれど、それだけだ。いつもより深く刺さっているけれど、普通に使っても骨すら切るはずのナイフは重力をかけて刺してもてのひらすら貫通していない。ああもうこの男のすべてがでたらめだ。

「殺される覚悟はできてんだろうなぁノミ蟲?」

静雄が血管を浮かび上がらせながら歪に笑う。
まずいと思って咄嗟にナイフから手を放したけれど、防御には間に合わなくて静雄が振り抜いた拳を防ぎ切れなかった。衝撃で壁に強かに体をぶつけた。そのままずるずると地面に沈みながらゲームオーバーだな、と嘲った。
脳みそが掻き混ぜられたんじゃないかと思うくらい頭はぐわんぐわんするし耳鳴りも激しい。この怪力馬鹿は何もためらわずにこめかみ狙ってきやがったと内心毒づいて明日の自分の悲惨な有様を考えた。顔はどれだけ腫れ上がるだろう。胴体や手足ならともかく、隠しようがない顔は困る。明日人と会う予定はどうしようと思う。
そもそもこんな場所からどうやって新羅のマンションまで行こう。新羅に世話にならなくともいい程度の怪我で済めばいいが、逃げ回った時間から無理だろうなと思う。長く逃げ回ればその分静雄の怒りを溜め込むことになるから怪我がひどい。


「…てめえ今なに考えてんだ」

静雄が臨也の襟首を掴みながら問うてきた。定まらない視界で金の頭を知覚する。

「シズちゃんのことだよ。決まってるでしょ」

うまく呂律が回らなくて正しく発音できたか怪しかったが、静雄が心底嫌そうに舌打ちしたから伝わってはいるのだろう。静雄の嫌そうな顔が脳裏に浮かんで、それが心底愉快で、臨也は静雄に向けて手を持ち上げた。瑣末なものだと判断したのか静雄は払い除けなかったので、臨也は静雄の首に手を回して静雄の唇にかぶりついた。すぐに静雄がやり返してくる。歯が当たるほど唇を押しつけられて舌も酸素もすべて奪われて頭がさらにくらくらした。
























:::::::::::::::::



アパッシオナート:演奏記号の一。熱情的にの意。

撃沈しましたがパルクールな臨也が書きたかったんです。