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俺に幸あれ!

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君に幸あれ。



人は死ぬほど人を愛すると、その人の本当に幸せを願うことが出来るらしい。
俺にこんなにもエゴとしか言えない優しさがあったなんて、自分でも驚きだ。

『別れようか。』
俺がそう言ったとき、帝人くんは泣いた。
『別れたくない。』と、俺が一番欲しかった言葉をくれた。
『ずっと、一緒に居たいんです。』
『僕を捨てないで下さい。』
『嫌です、嫌、嫌だ。』
漫画みたいに首を振りながら大粒の涙を零す帝人くんが紡ぐ言葉は充分過ぎるほど俺の心を縛る。

胸がぎゅっとなって痛い。苦しい。
俺だって別れたくない。ずっと一緒に居たい。

でも、俺とこのまま一緒に居れば、帝人くんに害があるのは間違いない。
今さらながら、なんで俺はこんな生き方をしてきたのだろうか、と、悔やんでから、
ああ、そうか、こんな生き方をしてなきゃ、きっと出会うこともなかった。と、思いなおした。

この先、俺はこの日を一生後悔するだろう。
なんで繋ぎとめなかったのか、と、過去の自分を責めるだろう。

でも好きだから、幸せになって欲しい。
それは、俺と共に居ては絶対に掴めないものだ。

優しい人と結婚して、子供が生まれて、家庭を持って。
帝人くんなら素敵な父親になれる。
俺のことは若気の至り、程度に苦い思い出にすれば良い。

今のこの苦しみも悲しみも、きっと時が解決してくれる。

大丈夫。
俺なら大丈夫だから。



「…ぅぶなわけないだろっ。」

自分の寝言のツッコミで目が覚めた。

一瞬自分の部屋の天井なのに、此処が何処だかわからなかった。
頭が混乱して、心臓がすごい勢いでバクバクしている。

午前3時26分28秒。
目覚めは最悪だ。

ため息を吐いて、憎々しげにケータイを見る。
そこにはちゃんと、昨晩の帝人くんからの着信履歴が残ってる。
『別れようか。』
そんな言葉は天地がひっくり返っても言わないし、言わせやしない。
その自信はあるのに。

原因は昨日。
帝人くんと二人で歩いている時、きぐるみのような服を着た2,3歳の子供を帝人くんが「可愛い」と言ったから。
別に「子供が欲しい」と言ったわけじゃない。
それなのに、俺の脳内では勝手に少し大人っぽくなった帝人くんと見知らぬ女性がベビーカーを押して笑って歩いていた。
穏やかで、幸せそうな家族。
そりゃ、俺と出会わなければ帝人くんならそういう家庭を築けるだろう。

もちろん、そんなもの、俺が願うわけも無い。

気付けば、着信履歴を操作して帝人くんに電話をかけていた。
こんな時間に出るわけも無いと、高をくくっていたら以外にもすぐに帝人くんが出た。

『はい?もしもし。』
「・・・なんでこんな時間まで起きてるの?明日に響くよ?」
『やだなぁ、そう言うならかけないでくださいよ。』
向こう側で苦笑してるのがわかる。
きっと眉尻を下げて、仕方ないなぁ、と言う顔で笑ってる。
『ちょっと面白いサイトを見つけちゃって、…気が付いたらこんな時間でした。』
「ふぅん。」
『あ、でももうそろそろ寝なきゃと思ってたんですよ?』
「ふぅん。」

『…怖い夢でも見ました?』

なんで、君にはわかっちゃうんだろうね。

「別に、・・・怖くは無いよ。有り得ない夢を見ただけだから。」
『へぇ、どんな夢ですか?』
悪いけど、口になんか出したくない。
「くだらない夢だよ。」

俺が話したくないと思っているのが伝わったのか、帝人くんは「そうですか。」と言ってそれ以上は追及しなかった。

『あ、今僕が見てたサイトなんですけど。』
「ん、何?」
『実は子供服のサイトを見てて。』
帝人くんの声で収まっていたはずの胸の鼓動が若干ざわつく。
「へぇ、それ、面白いの?」
『はい!今っていろんな服があるんですね。どれもこれも小さくて可愛くて可愛くて。』

そりゃ、子供用なら小さいだろうよ、とか、そう言う帝人くんのがよっぽど可愛いだとか、そんな言葉は呑み込んだ。

『昨日、プーさんのきぐるみ着た子が居たじゃないですか。』
「ああ、うん。」
黄色い奇天烈な格好で歩かされていた可哀想な子供を思い出す。
『いろいろシリーズがあって、…また、このサイトのモデルの子がすんごい可愛いんです。』

「へぇ。」

子供にまで嫉妬するのは大人げないと思いつつ、それなら一生子供のままで良いから嫉妬させてくれと俺の心が叫ぶ。

「…帝人くん、子供好きなんだ?」
『あ、はい。好きですよ。』

俺よりも?

「子供、欲しい?」

自分でも変なことを聞いてると思う。



『欲しいです。』

サラッと返ってきた帝人くんの言葉にヒュッと息を飲んだ。
さっきの夢の映像が、脳裏に鮮明に浮かぶ。
俺と共に居ては、掴めない幸せ。
それを君が望むと言うなら、俺はどうなる?
夢のように大人しく帝人くんの幸せを願えるわけもない。

否、本当は、本当は願ってあげたいと、そう思ってるんだけど。

夢は深層心理を表すとは良く言ったものだ。
俺はたぶん、帝人くんの幸せにあるべき姿を知ってる。

この先の未来を、俺が解放してあげれば帝人くんなら自然に幸せになれるだろう。

俺さえ居なければ、きっと。



『あ、でも日本じゃ婚約が認められてないんですから…当り前ですけど里親とか無理ですよね?養子とかなら・・・んー?よくわからないや、臨也さん知ってます?』

「え?」
『海外とかなら、どうでしょうか?』
「あ、と。」
『まぁ絶対欲しい!ってわけではないんですけど、やっぱり可愛いなぁと思っちゃいますよね。もちろん、子育てはとっっっても大変だと思いますけど。』
「そう、だね。」

『ですよね!臨也さんて実は子煩悩そうですから、絶対甘やかしちゃいそう!』
クスクスと笑う帝人くんの声を聞きながら、帝人くんの描く未来に俺が消されて居なかったことに気が付いた。

『あ、でも、臨也さんがあんまり子供に構ってばっかりじゃ、僕の方が寂しくなっちゃうなぁ、なんて。』


どうして、君はそう、俺の望む言葉をくれるんだろう。

「それ、俺のセリフだよ。」
『えー?』
帝人くんは楽しそうに笑う。
それはもう、幸せそうに。

俺も思わず笑った。自分の臆病すぎる心に。

「ねぇ、今からそっち行っていい?」
『え!?今から、ですか?』
「うん、どうしても会いたくなったんだよ。」
『っ、い、良いです、けど。』
照れてる。
きっと顔を真っ赤にして、視線を右往左往させてるんだろう。

さっきまで鮮明に映っていた夢の映像は、今や霞みがかってもう見えない。
帝人くんちへ着く頃にはその内容も完全に忘れてしまうだろう。


自分でも驚くほどつまらないエゴが起こしたくだらない夢だ。
何を恐れていたのか。

君に幸あれ。
俺が必ず幸せにするから。



そうは言っても、俺が君に幸せにして貰ってる方が10対1くらいの割合で多いんだろうけど。
作品名:俺に幸あれ! 作家名:阿古屋珠