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抱きしめてもいいですか

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ふわり、重い瞼をなんとか持ち上げて、帝人は小さく欠伸を漏らした。なんだか視界がぼやけてるなあ、とこれまたぼんやりした頭で考えながら、帝人は緩く小首を傾げた。ぼんやり。というか、なんだか視界が若干黒っぽい気がする。そこで、帝人は閃いたかのようにゆっくりと自分の瞳に手を近付けて、視界がぼやけていた原因であるものを取り払った。

「――…静雄さん」

「…ん?起きたか?」

すぐ傍から聞こえた聞き慣れた低い声に小さく笑みを零すと、帝人ははい、と視界を覆っていたサングラスを手渡し、ゆっくりと上体を起こした。

「あ゙ー…バレたか」

「そりゃあ、分かりますよ」

だって視界がハッキリしないんですもん。そう呟くように言った帝人の言葉に静雄はそうか?と不思議そうに小首を傾げてみせると、サングラスを受け取ってゆっくりとした動作で掛け直す。

「眠いんですか?」

「いや…逆。なんか帝人が寝てんの見てたら目が冴えちまってさ」

どうしてですか、とは幾ら幼馴染みである正臣から鈍感と称される帝人でも、流石に聞けなかった。聞いたら最後。取って喰われるのは目に見えている。

「……そうだ。どうして、僕にサングラス掛けてたんですか?」

それとなく、静雄の機嫌を損ねないように話題を切り替えて、先程から疑問に思っていた事を問い掛ける。

「んー…。いや、なんとなく、だな」

「なんとなく…ですか…?」

「おう。なんとなくだ」

「……じゃあどうして真っ赤なんでしょうか…っ…」

帝人は静雄に向けていた視線を下に下げて、小さく呟くように言葉を紡ぐ。帝人の言葉に静雄は小首を傾げると、言葉の意味に気付いて咄嗟にそっぽを向いた。

「…顔、真っ赤じゃないですか…」

「…気の所為じゃねえのか」

「…どう見ても真っ赤ですよ…」

帝人の言う通り、静雄は本当に真っ赤だった。詳しく言うと、首から顔に掛けて、割と色白な静雄の肌が真っ赤に染まっているのだ。文字通り耳まで真っ赤に染まっている静雄に釣られて、帝人も自然と頬が紅潮してくる。

「…すまん」

静雄が何故そんなに顔を真っ赤にして謝罪してくるのかが分からない。帝人は、赤い顔もそのままに、謝らないでください、と静雄の服の裾を握った。

「…っう、あの、だな…」

「はい。ゆっくりでいいですよ。ゆっくり落ち着いて、整理してから話してください。僕は何時まででも待つので…」

焦って言葉が出なくなっている静雄を落ち着かせるために帝人はやんわり微笑んでそう言うと、優しく瞳を細めて静雄を見詰める。手は、静雄の手を包み込むように握って。

「……帝人の、」

「はい」

「帝人の夢に、俺が出て来たらいいなと、思ったんだよ」

夢ん中でも帝人の全部で居たい、んだ。意を決して帝人の瞳を真っ直ぐ見据え、はっきりそう言うと、静雄は言った後に恥ずかしくなったのか途端に慌てたように顔を背け、再び真っ赤な顔で小さく、すまん、と謝った。

「…は、反則、です…っ…そんなの、狡いっ…」

「……帝人?」

背けた顔を帝人の方に向け直すと、そこには真っ赤な顔で静雄の手を握り締めながらぷるぷると身体を小刻みに震えさせ、何かに堪えるように唇を噛む帝人の姿があった。何事かと混乱状態に陥る静雄を余所に、帝人は手を握る力を更に強める。

「…っ…」

「み、みかど…?」

静雄は混乱しながらも言葉を発さなくなった帝人を心配して顔を覗き込む。

「――…っ…いいですか…?」

「……ん?」

「……っ抱き着いても、いいですか…っ…!!」

「っはぁ!?」

突然の出来事に頭が着いて行かない。元々レーズン並にちっぽけで、思考するのを即行放棄するような脳みそなのに、頼むからこれ以上混乱するような事をしないでくれ!静雄は何が起きたのかサッパリ分からない状態で、取り敢えず状況を整理しようと試みる。落ち着け落ち着け落ち着け。落ち着かねえと何も始まらねぇぞバカヤロウ。

「…み、かど…」

簡潔に言うと、帝人が静雄の腰に抱き着いている。そりゃあもう、がっしりと静雄の腰に腕を回して、絶対離さないと言わんばかりに。どうしてこうなった…!状況を理解したはいいが、その所為で更に混乱した静雄は取り敢えず帝人の名を呼ぶ。

「……はい、」

「……何がどうしてこうなった」

「……静雄さんの所為です」

「……そうか」

「……はい」

イマイチ話が噛み合っていないような気がするのだが、もはや静雄も帝人もそんな事はどうでもよかった。がしり、と静雄も帝人の身体を覆うように抱きしめて、壊したらすまん、とまた謝った。壊れません、力強い言葉と共に、抱き着く力が更に強まった。


抱き着いても怒りませんか
抱きしめても壊れませんか

(好きだなあ、と、改めて思った瞬間でした)

作品名:抱きしめてもいいですか 作家名:しずく