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ネガイボシ

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「なぁ。あんた、星は好きか?」
それがどうした。

「かわいくねーなぁ」
縁側に座り、日にあたっていた元就がそれまで一瞥もしなかった背後を振り向けば、図体のでかい白い鬼が部屋の中央に寝っ転がって頬杖をついていた。面白くなさそうに唇を尖らせるわりには、その目はひどく楽しそうで、まるでここが己の城であるかのようにふてぶてしい。凍てつくような視線を投げて寄越されてもどこ吹く風だ。この目が注がれたのが駒の一つであったならば、即座に震えあがり額を床に精一杯擦りながら許しを請うたであろう。しかし鬼は既に慣れ切ってしまっているからなのかどうなのか、眉一つ動かさない。
「で、好きか?それとも嫌いか?」
重ねて問う鬼から目を背けて、元就はそっけなく答えた。
「貴様にはどうでもいいことであろう」
その瞬間、背中に注がれる視線が険しくなったような気がした。
「どうでもいいかよくないかは、俺が決めることだ。あんたに勝手に断じられるいわれはねぇよ」
鬼の声は固く、不快感を隠そうともしていないが、元就は特に感情が揺れることはなかった。一口茶を啜り、冷たく言い捨てる。
「だからといって、我が答える義理もないわ」
背後でため息をつく気配がした。
「あんたなぁ、俺は星が好きか嫌いかを聞いてるだけだぜ?俺が気にくわねぇのは知ってるが、そうムキにならなくてもいいだろ」
「分かっているなら一刻早く失せるが良い。貴様との問答ほど無駄な時間の使い方もない」
「長引くほどその無駄な時間は増えていくぜ?俺は答え聞くまで帰る気はねぇし、なんなら一晩中でも居座ってやる」
「長曾我部…貴様、それでも国主か」
「そう。あんたとおんなじな」
何が可笑しいのか、声を立てて笑う長曾我部に、今度は元就がため息をつく番だった。
「ムキになっておるのは貴様ではないのか」
「俺は未だにガキんときの趣味が抜けてねぇらしいからな。で、どうなんだよ」
元就はまた振り返って長曾我部を睨んだが、その瞳に先程までの氷のような鋭さはない。かわりに呆れの色が混ざり、冷めきっていた。
「聞いたのち、即刻帰るというならば」
「ああ、帰る帰る。こんな面白みのねぇ屋敷なんざとっととおん出てやるよ」
ひらひらと手を振る長曾我部をさらにきつく睨んだあと、元就はふいと視線を縁側の向こうへと戻し、やがて口を開いた。
「嫌いではない」
「あー、やっぱりな。そう言うと思った」
からかう調子の声に苛立ちを感じて、さっさと帰れと言うつもりで三度首を巡らせようとすると、太い腕がそれを阻んだ。
後ろからはがいじめにされるように肩を抱きしめられて、しばし元就の時間が止まる。
「…ずっと日にあたってたわりには冷てぇなぁ、あんた。まだ冷えるんだから気をつけろよ」
頭の上に顎を乗せられ、それこそ身体を固定されてしまったところで、ようやく元就は口が利けるようになった。
「……なん、のつもりだ貴様…!!」
(うかつ…うかつうかつうかつ!)
気配に気付かなかった己を心中で責め立てながら、首を絡める鬼の腕に両手で爪を立てる。
「地味に痛ぇよ」
「黙れ下衆が!我の質問に答えよ!」
「下衆って…ひどい言われようだなオイ。抱きしめただけじゃねぇかよ、後ろから」
「さっさと放せ!そして失せるがいい!むしろ存在ごと消えよ!」
「安心しろよ。このまま首絞める気とかねぇから」
「!」
「いで!皮突き破るまで爪立てんじゃねぇ!んな心配しなくてもなんもしねぇよ!」
しばらくもがいていた元就だったが、やがて無駄だと理解した。いつの間にか長曾我部の足が左右に来ており、両腕だけだったのが全身で抱え込まれるようになっているのに気付いたからだ。人を呼ぼうかとも思ったが、駒といえどこのような姿を見られるのは癪だと早々に諦めた。とはいっても気が済んだ訳ではなく、腕には相変わらず爪を立てたままである。
しかし手入れされた爪はさほど深く食い込まないようで、多少血は滲んだものの、たくましい腕はびくともしなかった。
「愚劣愚劣愚劣愚劣愚劣ぐれつぐれつぐれつ…」
「お経みたいにぶつぶつ唱えてるんじゃねぇよ…。なんか呪われそうじゃねぇか」
「この鬼めが!この屈辱はいつか必ず…!」
「へーへー」
元就の地を這うような低い声にもまるで動じる様子はなく、それどころかぐりぐりと顎で頭の天辺を押してくる。角ばったそれが地味に痛い。
もはや口を利くのすら嫌になり、無言で足を勢いよく叩くと、頭に圧し掛かる重さはそのままに、圧力だけが消えた。
「どけろ」
「嫌だ」
「……」
「あんたいい匂いするから」
「…痴れ者が」
なぁ、と呼び掛けるように抱きしめる腕の力が強くなった。
「今度、近いうち、一緒に星を見ようぜ。いいとこ知ってんだ」
「戯けたことをほざく暇があったら放せ」
「まわりに明かりがひとつもないところでよ、今のうちだと空気が澄んでるから余計きれいに見える。海にも光が反射して、まるで星空んなかに浮いてるみたいだぜ」
「下らぬ」
「俺には下らなくねぇんだよ」
「一人で見ろ」
「寂しいだろ」
「自慢の駒がおるではないか。慣れ合い好きの貴様にはお似合いよ」
「俺の部下を駒とか言うな。それに俺はお前と見たいんだよ。野郎どもにも他の誰にも教えてねぇ、俺のとっておきなんだ」
どちらにも不似合いなくらい甘くて穏やかな声が、頭上から降り注ぐ。

「なぁ、頼むよ」
縋るような声に、元就は寸の間答えを見つけられなかった。
作品名:ネガイボシ 作家名:海斗