二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
璃琉@堕ちている途中
璃琉@堕ちている途中
novelistID. 22860
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

出口のない孤独を二乗

INDEX|1ページ/1ページ|

 



特にきっかけはなかった。敢えて言うのなら、少々窓の外を吹く風が強かったことだろうか。
目が覚めてしまった。
そうすると、もう眠れなかった。瞼を閉じても、寝返りを打っても、もう。
だから、隣の男を起こさぬように、ベッドを這い出した。床に散らばる衣服から下着のみを拾いつつ、部屋を後にする。
階段を降り、リビングのソファに辿り着くと、一旦腰掛けた。タラタラとブラジャーとショーツを着け、上からキャミソールを被る。そうして、再び立ち上がると、男のデスク、その奥の窓を目指した。あの、檻のような部屋の小さなそれとは違う、大きな硝子を。
当然降りているシャッターを上げる。ノロノロと眺めれば、流石は不夜城、眼下には安っぽい光の群れが踊っていた。
ああ、疲れたなぁ。そんな、老いたような感慨を覚えた。
それは、何も先刻の男との行為に対してだけではない、全てに対してだった。
随分長い間、変わらぬ日々を過ごしている。ルーティンワーク、それに沿って生きている。仕事だけではない、起きてから寝るまで、毎日を。
悪くはない想いを抱えている。けれど、ふとした瞬間に、疲労を覚えるのだ。
私は、何の為に生きているのだろうか。
そう問われて、わからない、と答えるようになって、長かった。
何処か近くもなく遠くもない場所で、救急車のサイレンが鳴っている。聴くともなしに聴きつつ、溜息を零した。諦めのそれを。

「どうしたの」

背後から抱き締められる。ほんの二十分前まで触れ合わせていた皮膚の、改めて擦れる感覚。
無意識に安堵し和らぐ身体になって、短くはない時間を過ごしていた。

「見ての通りよ」

余計なことを言うのが嫌で、どうにでも解釈出来る返答をした。それくらいには、愛している。その愛し方は、周囲に言わせれば歪んでいるのだろうが、所詮二人には二人しかいないことを、知っている。
だから、疲れるし、だから、疲れたとは口に出来ない。

「そう」

見ての通り、といういらえから、見ての通り、というだけの理解をした。そんな相槌だった。心地良かった。
それよりも、男には気になることがあったようだった。腕に込められた力と、吐息の熱さが、物語っている。

「いなくなったのかと思った」

己が、男の元から、消える。それは、今では想像出来ないシチュエーションだった。
幾度となく考えたのは確かだ。実際、行動に移そうとしたこともある。
けれど、無理だったのだ。最初は物理的に、現在は、心情的に。

「良かったぁ」

可愛そうな男だった。こんな女しか、いないなんて。そして、己には、こんな男しか、いない。
気づいたのだ、だから告げたのだ。
それなのに、未だ、斯くも男は脆い。

「言ったはずよ。私は、貴方の側にいるわ」

降る唇に、唇を重ねた。震える吐息を共有する。戯れのような、口づけ。
想うのだ。きっと、男も、疲れている。だって、己しかいないのだから。
檻のような部屋で二人、互いに互いを軟禁する夜。
今宵は偶々、己だった。昨夜は、男だった。
逃げた体温に、やっと解放されたのか、と涙する夜を繰り返していた。

「俺も、君の側にいるよ」

だが、それは、決して叶わぬ夢なのだ。例えるのなら、この不夜城を明滅する灯りのようで、儚い。
二人は、斯くも弱い。恐らくは、それくらいには、愛し合っている。

「いこうか」
「何処へ?」

いよいよ、永久の旅路にでも往くのだろうか。それならそれで、構わないのだけど。
しかし、男はふわりと微笑んだ。時期尚早、とでも言うように。そして、生まれたままの耳朶を飾るように優しげな声音で、囁いたのだった。

「この夜を、馬鹿にしに」

ああ、疲れたなぁ。この男に付き合うのも。
それでも、その誘いは、今の己には、このままセックスするよりも余程魅惑的だったのだ。
怖いのなら、怖がってやろうではないか。二人一緒なら、一人よりはマシだ。
どうせ手を繋ぐのだ、指を深く絡めて、離れられないように。それならば、

「せいぜい、愉しませて頂戴」

互いに掛からぬことだけを気をつけ、存分に唾を吐いてやろうではないか。





『出口のない孤独を二乗』

(でも、朝なんか来なければ良いと祈るの)