箱庭遊戯
「結局…俺の側に残ったのは、………」
暗く狭い部屋だった。灯りは、テーブルの上の蝋燭のみ。
もう三日、外出はしていない。否、出来ない、が正しい。
「…寒いわ」
この地に逃げて、そろそろひと月になろうか。気候には、未だ慣れない。
彼女がぼやくのも無理はない。薪が切れて半日だ。
「本当、寒いね」
そっと、震える背中から抱き締めた。こうしているのが一番だと気づいて、三時間になる。
回した腕に、腕が重なった。首を傾ければ、青冷めた唇がある。
「ねぇ、」
「………」
「もっと、温まろうか」
答えない口を、口で塞いだ。こじ開ける必要も無い。すぐさま絡んだ舌は、互いの熱を奪い合うように、激しく動き回った。
傷んだソファの上に押し倒した身体が、その冷たさに、俺の体温を求める。
「君だけだったね」
俺を必要としてくれるのは、彼女だけだ。悟ったのはいつのことだったろう。
白い肌に指を滑らせる。触れた端から桃色に染まっていく様は、俺の情欲を簡単に掻き立てた。
「君だけだよ」
しかし、彼女が俺の手を握って離さないという確信は、いつになったら持てるのだろう。
こうして幾度身体を繋いでも、不安は消えない。
「あいしてる」
俺は、彼女を捕まえたままでいられるだろうか。
いっそ、首でも絞めてしまおうか。
「あいしてるわ」
窓の外では、雪が吹き荒れている。まだ、平気だろう。
思った俺の首に指が這うのは、三秒後。
『箱庭遊戯』
作品名:箱庭遊戯 作家名:璃琉@堕ちている途中