一日一ミハエルチャレンジ
2/1 エーリッヒ
ミハさまさんへ「片思い」「バレンタイン」「嘘吐き」で清廉なお話を書いてね。
http://shindanmaker.com/50113 ということで^^
宿舎の近くには、それなりの大きさの森がある。
最低限しか人の手の入らないそこは、十分に自然を湛えていて、繁る緑だけでなく、いくらかの動物たちも見られた。
そして、朝や練習の合間、ふと時間のできたとき、森の中で動物と過ごすミハエルの姿を目撃することもままあった。
「ミハエル、お出かけですか?」
今日も今日とてスニーカーを履いて出かける準備をしているらしいミハエルの背中に、微笑ましい類の笑みを浮かべてエーリッヒが声をかけた。
くるりと振り返った顔はにこにこと笑顔を浮かべていて、
「うん!」
屈託ない明るい声が応える。
なにやら右手に袋をつかんで立ち上がるのを、エーリッヒが不思議そうに見た。
「それは?」
「鳥にあげるご飯。今日はフンパツしたんだ」
「奮発、ですか」
「そろそろバレンタインだからさ、好きの気持ちはちゃんと伝えないとね」
胸を張ったミハエルを一瞬きょとんとして眺めて、それからふっと笑み崩れる。
「そうですね、それは大事なことです」
「…エーリッヒも、来る?」
「いいんですか?」
「いいよ、一緒の方が楽しいし!」
にこにこと邪気のない緑の瞳に誘われて、断れようはずもない。
「じゃあ、ご一緒します」
うん、とミハエルが嬉しそうに頷いて、それからエーリッヒの腕を引いた。
「早く行こう!」
常緑樹の緑の合間に時折聞こえる囀りは、ミハエルの"恋い焦がれる"相手が在宅であることを知らせている。
しかし、
「……今日はなかなか出てきてくれないなあ」
心底残念そうな声音は、聞いているエーリッヒの方が落ち込んでしまいそうなものである。
眉根を寄せて、エーリッヒが困った顔になる。
なんとかしてあげたいところだが、野生の動物のことだ、さすがにどうにもならない。
「なーんだ、僕の片思いかあ」
多少淋しそうに笑うミハエルに、更に困った顔を作ったところで、
「……そんなこと、ないみたいですよ」
エーリッヒが微笑んだ。
え、と目を丸くしてエーリッヒの指先が向かう方へと ミハエルが視線をやれば、
「………わあ!」
ぱたぱたと羽を広げた二羽の青い鳥が、ミハエル目がけて降りてくる。
つんと手のひらをつついて啄むこそばゆさに、ミハエルが目を細めて笑った。
二羽のほのかな重みだけれど、怯えることなくさもそこが居場所であるかのように足をとまらせる鳥の様子からは、ミハエルの片思いであるとは思えない。
「通じてるみたいですね」
「うん!」
満面の笑みで頷くミハエルの視線は、手のひらの二羽の鳥に向けて固定されている。
微笑ましい思いでそれを見ていたエーリッヒだったが、
「……ちょっと、」
「え?」
「妬けますね」
相変わらず表情は笑みのままだったが。
「僕達も、ミハエルのことが大好きですから」
ぴぴ、と歌うような鳥の音が小さな手のひらの上で踊った。
軽やかなそれに紛れて、エーリッヒが言葉を続ける。
「…両思いだと、嬉しいんですけど」
鳥よりももっと思っている自信もあるんですけどね、と手のひらに顔を近付けたエーリッヒにミハエルが笑った。
「決まってる。両思いだよ!」
2011.02.01
作品名:一日一ミハエルチャレンジ 作家名:ことかた