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暗闇より

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 知らない土地、真っ暗闇の中一人で閃は身を縮こまらせて歩く。
「頭領、どこ行ったのかな……」
 夜行の中から数人、ほど近くの山中で戦闘の訓練をすることになり、いざ訓練が終わってみると頭領の正守がいなかった。
 戦闘班ではないということで訓練を見守る立場にいた閃が一番疲れていないということで、姿を消した正守を捜しに行くように言われてやって来たはいいものの、知らない山の中で、気分は旅人だった。閃は妖混じり特有の夜目がきくからいいようなものの、そうでなければ鼻先だって見えない漆黒の森だ。正守の気配を探りながら道なき道を歩く。
「この辺りだと思うんだけどな……」
 大きな岩を一つ迂回して天を仰いだ、その時だった。
 ズシャア。
「うわっ!?」
 足を滑らせて閃は地面に空いた暗い穴へと吸い込まれていった。

 目を開いても、目の前は闇。どうやら岩の下に落とし穴のような窪地が口を開いていたらしかった。
「あいたたた……」
 少し気を失っていたようだ、地面についていた側である身体の右側が冷たい。
 手足を動かしてみるが、幸いにも怪我はないようだった。
「情けねぇ……」
 身体を起こして穴の入り口を見ると、けっこう大きな穴が開いている。どうにかして出口へとはい上がろうとしたが、手や足をかけられるようなところがないし、変化でもしない限りジャンプで届く距離でもない。
 つくづく自分の不用心さが痛い。穴に落ちる、などと。そう長い間気を失っていたとは思えないが、もしかしたら今頃皆に探されているかもしれない。
「人を探しにきて自分が探されるとか、ギャグかよ」
 とにかくこういったじめじめとして暗くて狭い場所は得意ではない。どうにかして出る手段を探さないと。そう思った時だった。
「何がギャグだ?」
「うわ!」
 独り言に返事が降ってきて驚く。穴の入り口のところから誰かが覗き込んでいるようだった。
「何やってるんだ、閃」
 声でわかる。入り口のところに居るのは閃が探していた張本人――正守だ。
「ええと、落ちちゃったみたいで……」
 頭を掻きながら弁明すると正守の苦笑する気配が伝わってくる。
「動けるか?」
「それは大丈夫です。ただ足場がないんで作ってもらえると嬉しいんですけど」
「お安いご用だよ」
 すると天から足場にするのに丁度良い三十センチ四方の結界が1メートルほどの幅を開けて降りてくる。閃は素直にそれに足をかけて、入り口の手前へとたどり着く。
「ほら」
 透明な階段を登り最後は正守に手を引かれながら穴から脱出すると、じめじめしていた穴の中に比べて外の空気は気持ちよく感じられた。
「大丈夫か?怪我はないか?」
「平気です。あのっ、頭領に手間をかけさせてしまって済みませんでした」
「そんなこといいんだよ」
 正守は閃の全身をあらためると、少し土の付いていた右袖を払うと、そのまま腕を引っ張るようにして閃を引き寄せ、抱きしめた。
「頭領?」
「お前ね、俺が見つけなかったらどうなってたと思う?」
「……すみません」
「そもそもどうしてこんなところ一人でうろついてたんだ?」
「……頭領を探しに来て……」
 ぼそぼそと呟くと正守がああ、と声を上げる。
「それは済まなかった。少し山全体を見渡せる場所で考えたいことがあったもんだから」
「頭領も、何事も無くて安心しました」
「ん。ありがとうな」
 正守がわしわしと閃の頭を撫でる。その手がゆっくりと後頭部を降りて、耳の下を過ぎて顎へと当たる。正面から少し上向きになるように顔を上げさせられ、熱い瞳が閃のそれを捕らえる。
「?」
「閃」
「はい」
「……キスしていいか?」
 言いながら、正守は見た目に似合わず繊細な指先で閃の唇を撫でる。その手つきから慈愛のようなものを感じたのは気のせいだったのか。
「いい…です」
 少し緊張して上擦った声で答えると、正守の顔が近づいて来たので瞼を閉じる。閃の唇に正守の唇が重なる。夜気に晒された互いの唇はいつもより冷たい。けれど唇を割って入り込んでくる舌の熱さはいつもと変わらず、閃の理性を奪っていく。
「ん……ふ、ぅ……」
 静寂に支配された森で、ぴちゃぴちゃとキスの水音が閃の耳に伝わってくる。熱情的な口付けに頭の芯がとろけて、正守の胸に身体を預ける。顎を掴んだ手と逆の手で背中を抱かれ、ますます正守に溺れていく。
 足が頽れそうになって正守の腕を掴むと、唇が離れた。
「…ん」
「帰るか……名残惜しいけど、な?」
 不満そうに鼻を鳴らした閃に、正守が茶化すようにしながら身体を少し離す。
「……名残惜しいです」
 素直に思ったことを口にしてみた。意外と今日は素直に言える。真っ暗で正守からは閃の顔が見えないからか。
「……そっか――黒姫」
 正守の身体から異形の気配が抜け出て、漆黒の鱗を纏った大きな鯉を形作る。
「皆のところに案内してくれ、黒姫。――俺もだよ、閃」
 それが名残惜しい、という言葉にかかって告げられた文句だと察した閃は素直に頷いた。
「今度、ゆっくり、な?」
「はい」
 余裕の態度の正守に対し、今度は閃が指先で正守の唇を撫でると、正守は困ったように唇に微笑みを形作る。
 黒姫が正守に何事か告げると、二人は互いの身体を離し、暗い山の中を慎重に仲間の元へと進んでいった。
                                      <終>
作品名:暗闇より 作家名:y_kamei