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金木犀

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金木犀

 真っ暗闇の中に、人の気配を感じて立ち止まる。
 目にはいるのは庭の金木犀ばかりだが――確かに誰かいる。しかも気配を殺して。先手必勝とばかりに印を結ぶと、屋根から人の頭がにゅう、と逆に降りてきた。
「タンマ、頭領!俺です!!」
「――閃か。脅かすな」
「すみません」
 そのまま逆上がりを逆回転して閃は廊下へと弾みをつけて降り立つ。足音は消してある。猫みたいだなと思いながら正守は閃に問いかける。
「どうしたんだ、こんな時間に」
「いえ……その……ええと……」
 ひどく言いにくそうにしているので、助け船を出してみることにする。
「それにしても閃、気配を消すの上手くなったな」
「そうですか?」
 暗闇の中でも閃が嬉しそうに顔を上げるのがわかる。ようやく正面から自分を見てくれたことに内心でほっとする。
「そうだなぁ、良守あたりだったらもっと至近距離じゃないと気づかなかったかもな。あいつ、前しか見てないし」
「俺あいつの後ろとったことありますよ」
「マジで?良森もまだまだ修行が足りないな」
「ほんとですよねー」
 うんうんとうなずく閃を見て、正守の緊張も解ける。今ならスムーズに話せそうだ。
「ところで話戻すけど、こんな時間にどうしたの?」
「いえ、あのですね……頭領のところに行こうかと……」
「俺の処?何故?」
 愚問だったかもしれない。こんな時間にやってくるということは、おいそれとは口にできないような相談ごとか何かに決まっているのに。
 と反省して閃を見ると、閃は真っ赤になって下を向いてしまっているではないか。
「閃?」
「……っ」
 閃は身体を縮めてもじもじと自分の身体を抱く仕草をする。それでなんとなく、ピンときた。
「こんな時間に俺の部屋に来たら、おいしく頂かれちゃうかもね?」
「あ……」
 弾かれたように顔を上げる閃の目が輝いている。そうなのだ。閃も立派な、思春期の身体を持つ少年なのだ。
「俺、自制できる自信ないけどそれでもいい?」
 わざと砕けた口調で閃を引き寄せると、閃が熱っぽい目で見上げてくる。
 この目線だけで、酔えてしまえそうな気がした。

「頭領……」
 夜中に身体が疼いて、どうしようもなくて正守の部屋へと忍ぼうとした矢先に、廊下を歩く正守に気づいて気配を消したまま逡巡した。
 平たく言えば、閃は正守に抱かれたかったのだ。
 それを察してもらえて、心の中でほっと胸をなで下ろす。
 正守がまっすぐに閃を見て、その視線があたたかい。
 その暖かさに包まれて閃が目を瞑ると、正守の手が閃の髪の毛に触れる。
「キスしていいか?」
「……はい」
 訊かなくてもいいのに、と思いながらも、同時に正守のそんな所を好ましくも感じて、頬が緩む。僅かに笑みを形作った唇に正守の唇が寄せられ、名を呼ばれた。
「閃」
「は、い」
 言葉を一つ紡ぐたびに唇が軽く触れる、そのギリギリの接触を正守は楽しんでいるように思えた。
「誰にも見られてないな?」
「はい」
 小さな囁き声が、こんなにも近い。
「まぁ俺は誰に見られてもいいんだけど」
「まさかそんな!」
 正守は立場のある人間だ。変な噂は立てられない。その心配と、でも抱かれたいという欲求が同時に成立しないことが、この関係のねじれた部分でもあることは閃も承知している。
「しっ――ま、見られてないほうが好き勝手できるってだけの話だけどな」
 閃が何か言う前に、正守のキスが降ってきた。濃厚で、熱っぽい、本気のキス。
 月のない今夜、二人を見ている者がいるとしたら庭の金木犀だけだ。
 ふわりと風に乗って閃に届いた金木犀の香りにむせそうになりながら、閃は正守のキスに、そしてこれから行われるであろう行為への期待に酔った。

                             <終>
作品名:金木犀 作家名:y_kamei