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璃琉@堕ちている途中
璃琉@堕ちている途中
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イレギュラー

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折原臨也は苛々していた。
理由は特に無い。敢えて挙げるなら、二十分前に降り出した激しい雨がもう止んだから、だったかも知れない。
コンビニで買ったビニール傘が邪魔になった。
傘を買うのは嫌だったが、雨に濡れるのはもっと嫌だった。しかし、雨の止んだ今、買った傘の邪魔なことといったら、それを軽く超えていた。
こんなことなら、金など出さず、店内でくだらない雑誌を相手にやり過ごす方を選んだものを。
傘を捨て置くことは考えていない。自分が金を払ったことで、誰かがいつかタダで雨を凌ぐ様を想像するのは、もっと嫌だった。そして、最も嫌なのは、誰の手にも渡らず、野晒しになり壊れてしまうことである。
一つ溜息を零す。懐から小さな箱と赤い何かを取り出した。
箱を弄る。路地裏にはゴミが散乱していたが、気紛れに一本先の通りのコンビニまで、破った紙とフィルムを捨てに行った。
戻って来ると、箱から取り出した丸細く白い包みを咥え、赤い物体を近づける。
―シュボッ。
火の点いたそれを、吸って、息を吐いた。

(…あーあ、見つかった)

煙の行方をぼんやりと目が追い掛ける。壁に預けた背は、そのままに。むしろ、久々の感覚に身体は脱力していく。
先手を打つのも、逃げるのも、面倒だった。

「お前…タバコ吸ってたのかよ」
「今だけだよ」

僅かに鋭さが抜けた横目に、鮮やかな金が映り込む。サングラスのバーテン服は、同じようにタバコを咥えていた。
視線を落とす。男は賢明な判断の持ち主だったようで、包帯の巻かれた手は空だった。

「どうしたの、シズちゃん。珍しいね、怒鳴りも殴りかかりもしないなんて」
「いや…何かよぉ…」

左手で短くなったタバコを持つと、息を吐き出す。そうして、平和島静雄は臨也の横に並ぶように、壁にもたれた。
臨也はコートの隠しポケットに手を伸ばすか数瞬迷う。けれど、煙が目に染みたことで、その緊張さえも手放した。どうでも良くなってしまったのである。

「高校ん時のこと、思い出した」
「思い出すも何も。俺と君は、毎日喧嘩してただけだろ」
「まぁ、そりゃそうなんだが。…お前、覚えてねぇのかよ」

持ったタバコを携帯灰皿にしまいつつ、

「一緒に吸った日のこと」

静雄が薄緑のライターを取り出す。
箱から直接咥えた新たなタバコに点した火は、勢いが強く一瞬大きく燃え上がり、二人を照らし出した。

「屋上で数学の授業サボってたら、お前が来やがって、俺のをパクっただろ」
「…そんなこと、覚えてないよ。ていうか、シズちゃんの妄想じゃないの?そんな記憶捏造しちゃう程、俺のことが好きなわけ?」
「殺すぞ手前」

だが、拳は一向に飛んで来ない。だから、臨也もそれ以上何も言わなかった。
二筋の紫煙が同じように、夜空へと上って行く。それを黙って眺めるだけだった。

「お前こそ、珍しいな」
「…なーにがー?」
「いつもはベラベラまくし立てる癖に、無言貫くなんて気味が悪ぃ」
「君こそ、そんな大人しいなんて、明日は雪でも降るのかな」
「…降るかもな、この寒さじゃ」
「だから、その返答がさ、」

右手の人差し指と中指にタバコを挟んだ臨也が左横を向くと、怒りの沸点の低い喧嘩人形と目が合った。
今日初めてまともに見る顔は、出逢った頃とほとんど変わらない。ただ、いつもは浮いているはずの青筋が見当たらなかった。

「あ?」
「………いや、何でもないよ」

そう言って、揶揄いの台詞さえ煙に混ぜて虚空へ逃がす。
正面に戻された臨也の秀麗な顔は、美しく美しく、歪んでいた。

「調子狂うな」
「完全にこっちの台詞だよね、それ」
「あ"ー、腹減った」
「脈絡無さ過ぎるよ…」

それから、再び沈黙が訪れた。
臨也のタバコが一向に減らないのに対し、静雄のそれはどんどん姿を消していく。
寒空からは徐々に雲が晴れていった。やがて、月の光が鈍く差し込み始める。

(キレイだなぁ)

柄にもない感慨が、タバコ独特の倦怠感と共に臨也の脳裏を吹き抜けた。

「やべ、オイルが」
「シズちゃんはさ、」
「被せんな」
「本当に、簡単に、俺の予想を裏切ってくれるよね」
「…何がだよ」
「こっちの話さ」

要らないから、プレゼント。
ニイっと嗤い、臨也はビニール傘片手に背を向けた。呆気なく去って行く足取りは、どこか弾んでいるように見える。
視界から遠ざかる仇敵に、静雄は首を捻った。ゴキリ、と骨の折れたような音が響くが、通りすがりの黒猫がニャーンと一声鳴いただけである。

「…何だ、覚えてたんじゃねぇか」

静雄の掌に残されたのは、高校生だった頃の自分が愛煙していたパッケージと、赤い百円ライターだった。
数秒それらを眺め、無造作にポケットに突っ込む。入れ替わり取り出した携帯の画面を確認した。
どうやら、明日は晴れるようだ。





『イレギュラー』

(うぜぇくらい、人生愉しそうだよなぁ)
(さぁて…昼は松屋だったから、バランス取って夜は吉野家だな…)