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隠すならいつもの場所で

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トトトトト、と走るように小刻みに音が鳴る。
まな板と包丁が奏でるリズムはいつ聞いても小気味よくて好きだ。
アキラは調理室でいつも通り部活動に勤しむヨウスケを見ながら今日の昼食が出来上がるのを待っていた。

青の世界に統一され、世界は脅威から解放された。
だが、爪痕は大きい。
まだまだヨウスケとアキラに残された仕事は山積みだった。
教官や学生としての生活を送る傍らで、まずはLAGの復興に手を尽くす毎日。
忙しい日々は変わらなかったのである。

「アキラ、冷蔵庫から卵を出してくれ」
「えっ?あ、うん、分かった。待っててね」

回想に浸っていたところに突然声を掛けられ、アキラは慌てて立ち上がった。
ガタンと椅子が大きな音を立てたが、ヨウスケは一瞥しただけで見ないふりをしてくれたようだ。
普段は触らせてもくれない冷蔵庫に駆け寄ると、がちゃりと重いドアを引く。
決して豊富とは言えないが様々な食材が収められた冷蔵庫の中身は、ヨウスケ曰く料理部の部員たちである。

「卵何個出せばいいの?」

ドアポケットにちょこんと収まっている卵の数は四つ。
何を作るか知らされていないアキラには使う卵の数など想像も出来ない。

「三つでいい。四つだときっと余ってしまうから」
「三つね。…ん?」

卵三つを小さな手に乗せたアキラは、小さな箱がチルド室に入っていることに気がついた。
ケーキにしては入れておく場所がおかしい。
なぜだか酷く気になって、ヨウスケに気づかれないように、興味本位にチルド室の引き出しをそっと引いた。

ハムやチーズに紛れて、白く四角い箱がちょこんと乗っている。
大きさは十センチ角くらいであまり冷蔵庫では見かけないような、そんな箱である。

「アキラ?卵、見つからないのか?」

カチ、とガスコンロの火を止める音がして、ヨウスケが近づいてくる。
慌ててチルド室の引き出しを押し込もうとするも、片手には卵を持っていて上手くいかない。

「アキラ…?」

アキラの後ろからヨウスケが顔を覗かせ、そしてアキラと同じ場所へと視線を向けた。
手の中の卵はじわじわと温まっているというのに、開け放ったままの冷蔵庫からは沈黙と同じくらい冷たい空気が流れている。
チルド室の白い箱も二人の視線を受けてもひんやり冷たくそこにあるだけだ。

「あ、あの…見ちゃだめだったのかな…?」
「……いや、そういうわけじゃないんだが…」

アキラの手から卵を取り上げ、ヨウスケは静かにチルド室と冷蔵庫の扉を閉める。
見上げる顔は困惑していて、仄かに頬が赤くなっていた。
見られることは想定外だったのだろう。
隠し場所が冷蔵庫というのが実にヨウスケらしかったが、そうまでして隠されると知りたくなるのもまた人情である。
アキラはもう一度冷蔵庫に目を向けて、どうしようかと首を傾けた。

「……昼食を食べ終わったら、あんたに渡す。その予定だったんだ。だから…」

ぽつりと背中から掛けられた声に、アキラはくるりと振り向いた。
ヨウスケは卵を手にやはり困ったようにアキラを見詰めていたけれど、その視線には表情ほどの迷いはない。
懐かしい感覚が蘇る。
覚悟を決めたヨウスケの、潔さを思い出した。
きっととても大事なことを伝えてくれるつもりなのだろうと、アキラはどきどきと胸を高鳴らせる。
十センチ角の、四角い箱に収まるもの。
想像するのはそう難しいことではなさそうだ。

「とりあえず今は忘れてくれると嬉しい」
「……うん、分かった。ヨウスケくんがそう言うなら、忘れちゃうね」
「ああ」

ふいと背を向けたヨウスケに抱きつきたい気持ちを抑えることの方が、忘れることよりずっと大変だ。
ふにゃりと笑み崩れるアキラを前に、ヨウスケの包丁は軽やかなリズムを刻み続けている。
作品名:隠すならいつもの場所で 作家名:ユズキ