射創
明かりを消して、星の光さえ入入らないようにカーテンを引いた部屋の中、タクトは一糸纏わぬアキラの身体を抱き寄せる。
出来ることならばもっと明るい光の下で思う存分美しい肌や愛らしい顔を眺めてみたい。
だがタクトにはそう出来ない理由があった。
彼女にではなく、自分自身に。
暗闇の中で抱き合って、蕩けるような濃密な時間に浸る。
ささやかに揺れる胸に口付けると跳ねる体が愛おしい。
願わくばその表情のひと欠片でも目に焼き付けたかったが、どれだけアキラの顔を覗き込んでも盲いたように何も見えなかった。
何も見えないのは互いに同じで、不安なのかアキラが珍しくタクトの背中に腕を回してくる。
いつもはきつくシーツを掴んでばかりで無理をさせていると思っていただけに、その行動は素直に嬉しかったが、同時にひやりと頭の芯が冷えた。
アキラの指先がタクトの背骨を辿る。
赤味を帯びた指の腹に触れるのは、ごつごつとした骨ばかりではない。
「っ、あ、……タクト、くん…?」
手を振り払うわけにはいかない。
二度と離さないと誓った女性の手を、危惧していた事態が訪れたからといって無理やり引き剥がすことはタクトには出来そうもなかった。
かといって快楽で誤魔化してしまえるほど情交に慣れているわけでもない。
仕方なく腰の動きを止めてアキラの言葉を待つと、アキラの指が執拗にそこを撫でて、やがてするりと落ちていった。
「これ…どう、したの…?」
「貴方が気にすることじゃない」
声に被せるようにして用意していた言葉を紡ぐ。
その用意周到さがアキラの疑念を強めてしまうことくらい、分かってはいたけれど。
「……私、の、せい?」
続く言葉すら予想通りだ。
タクトは首を振るとアキラの小さなくちびるを啄ばんだ。
「違う。貴方のせいじゃない。これは僕の誇りだ、だから貴方は気にしなくてもいい。あのときもそう言っただろう?」
ゆるゆると身体を動かしながら、タクトは違うと何度も繰り返した。
そう、この傷はアキラを守れたという証。
その直後に道を間違えてしまったけれど、あの時アキラを守りたいと命を懸けたことを否定されたくはなかった。
「やっ、あ…だめ、ちゃんと、話、…!」
「話なら後で聞こう。今は貴方が欲しい。ここで中断なんて意地悪は止めてもらえないか」
「タ、ク…っ、ぅ……」
アンカーで撃たれた時の、醜い引き攣れた痕。
これだけは紅の世界の住人になろうと、その後に青の世界へと舞い戻ろうと、治りはしなかった。
タクト自身が治すことを無意識に拒んでいたのかもしれない。
アキラがタクトを撃ち抜いたという、互いの覚悟を刻み付けておきたかった。
(貴方が僕を殺したという、この上なく甘美な事実を、)
(僕が貴方の心を深く傷つけたという、この上なく狂おしい罪状を、)
泣きじゃくるように嬌声を上げるアキラに深く深く口付ける。
重なった身体が蕩けてしまうその日まで、永遠に手放すことのない傷痕を胸に抱きながら。