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幸せの海

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夕暮れに水飛沫がきらきらと弾けるように飛んでいる。
白いワンピースを着た少女が波打ち際で遊んでいるのをヨウスケは膝の上に肘を置いて頬杖をつきながら見守っていた。

黄金に染まる海はいつでも親友のことを思い起こさせる。
紅と青、敵対してまでも守りたかったものはお互いに同じだった。
あの時の選択を後悔したことはなかったが、この手で斬った感触だけは永遠に忘れることは出来ないだろう。
奪った命の分、ヨウスケは生きなければならない。
生きて、アキラを幸せにすることが、ヨウスケのただ一つの望みであり、目標でもあった。

蒼い目を細めて海と少女を見つめるヨウスケの首筋に突然ひやりとしたものが当てられ、ヨウスケは「うわっ」と声を上げて肘を滑らせた。
驚いて振り返った先に、くすくすと笑うアキラが立っている。
栗色の髪が夕日に照らされて少し赤く、そして透き通るように風に揺れていた。
胸の上あたりで切り揃えられた髪は親友の髪の長さによく似ている。

「驚いた?」
「ああ、心臓が止まるかと思った」
「大袈裟ね、ヨウスケくん」

缶ジュースを手渡され、ヨウスケは水滴の浮かぶそれのプルトップを起こした。
夕暮れとは言えリュウキュウの夏は暑い。
頬を撫でる風も、徐々に落ちゆく日差しも暑いままだ。
一気に飲み干して乾いた喉を潤すと、まだ後ろに立ったままのアキラを振り返る。
見上げたアキラの顔は幸せそうに笑っていて、ヨウスケは空き缶を自分の横に置き、濡れたままの手をゆっくりと伸ばした。
応えるように白い手がヨウスケの肩に乗る。
アキラの首筋を引き寄せ、上下逆になったままでくちびるを触れ合わせた。
長い髪が焼けて汗ばんだ肌を滑っていくのがくすぐったい。
くちびるを離してアキラの頬を撫でると、アキラの笑みが一層濃くなった。

「アキラ」

幸せか、と聞こうとして口を噤む。
笑顔に嘘がないことなどヨウスケが一番よく知ってることだった。

「なあに?」
「……なんでもない。そろそろ帰ろう。今日の夕飯も腕によりをかけてやる。……楽しみにしておけ」
「うん!でもシイタケは抜いてあげてね。あの子、凄く嫌がるから」

ぱしゃっ、と飛沫が上がる。
白いワンピースの裾は海水でずぶ濡れになっていた。
少女に手招きをしながらアキラは強い眼差しを海に向けている。
その表情は親友が知らない、大人びた母の表情だ。

「睨まれるのはもう懲り懲りでしょ?」
「……ああ、懲り懲りだ」

飛び込んできた小さな身体を受け止め、ヨウスケは少女の小さすぎる手を握った。
逆の手をアキラが握っている。
守るべきものが一つ増えた。
そしてきっとこれからまだ増えていくだろう。

絵に描いたような家族の姿に、ヨウスケは心の底から幸せだと実感した。
作品名:幸せの海 作家名:ユズキ