Wedding(同人誌)
国として、出来ることならば他国と協力して国を繁栄させなければならない。それが耀にとっても、国民にとっても望ましいことは火を見るより明らかなのだ。だからこそ、迷っていた。
今、耀の手の中には一つの指輪が握りしめられている。
大切に大切に温めてきた想いがつまったその指輪を、耀は「国」ではなく個人として受け取った。僕だけのものになってほしい、と遠回しに伝えられたプロポーズの言葉は耀の耳に入って、心地よく溶けた。だが、耀は固まってしまった。「国」という立場である以上、この想いを繋げてしまっても良いものかと考えて、躊躇ってしまったのだ。
戸惑ってしまった耀の様子に恋人――イヴァンも気付いたらしく、柔らかくほほ笑むと指輪だけを耀の指にはめた。
「返事は、いつでも良いから。」
ならば、世界が終る時でも良いのか。
そういう意地悪な質問が脳裏をかすめる。優しく聞き分けの良い彼ならばきっと世界が終るその時まで返事を待ってくれるだろう。けれど、それはあまりにもお互いにとって酷だ。
結局、次に会うときまでに返事をすると言って帰国してしまった。決してイヴァンのことをないがしろにしているわけではない。むしろ逆である。大事にしたいからこそ、なるべくプライベートと外交の線引きをしてきたつもりだし、会える時は彼の望むままになんでもしてあげた。勿論その愛情は与えるだけでなく、サプライズや握られた手から貰った分だけの愛情を受け取ったつもりだ。そして最大の愛を、指輪を、渡されたのだ。
もしもこの運命が、誰にも支配されることなく耀の手の内にあるだけの自由なものだったならば喜んでイヴァンの胸に飛び込んだだろう。
あの時固まってしまった理由はただただ国をおもって思わず出てしまった行為だ。もし叶うのならば、この運命を誰かに託したい。国の平和を願いながら長いこと生きてきたことは、辛いこともあったし楽しいことも嬉しいこともたくさんあった。けれど、どの思い出を思い出しても、合間合間にイヴァンとの思い出が入ってきてしまう。そのくらい、耀はイヴァンに惚れていたのだ。
作品名:Wedding(同人誌) 作家名:桃斗