冬の海
*冬の海*(ダテチカです)
---------------------------------------
「政宗、もう寒ぃから帰ぇらねえかぁ?」
元親の情けない声が蒼い海に吸い込まれる。
政宗と元親は船の上にいた。
この、クソ寒い冬の海になぜ二人がいるかと言うと、
何時ものごとく政宗の我侭な一言からであった。
「HEY、冬のこの地を海の上からみてみたいと思わねえか?」
「ま・政宗様?またそのようなっ」
「こう寒いとよう、あんまり体を動かしたくなくなるだろう?だからこそ、
自分に鞭うってやりたくなる時があんだよ、なあ、元親!」
「ぅえ?俺?」
「てめぇ、政宗様に余計なこと吹き込みやがったな」
「ええ?冬の海は、波が荒くて危ねぇって言っただけだぞ?」
「HA・HA~N、だからこそだ、その波を乗り切って冬の景色を見てやろうってことだ。」
「政宗様、冬の海は貴方様が考えている以上に危険なものですぞ」
「そうだぜ政宗、わざわざ冬の海に出るなんてよぉ、やめたほうがいいぜぇ」
てな会話が交わされたのが3日前、小十郎の前では諦めたかのように見せかけた政宗であったが、
小十郎の監視の隙をみて,元親を巻き込み冬の海へとやってきたのであった。
「大丈夫ですかい?アニキ」
野郎共も心配する中、元親は奥州に来るたびいろいろと世話になっていることもあり、
しかたなく政宗の我侭に付き合うことにしたのであるが。
『海から帰ったら俺も政宗も野郎共も兄さんに大目玉だな』
と覚悟しながら船を出した。
「いいかぁ政宗、あんまり波が荒いようならすぐに引き返すからなぁ」
「OK、元親」
政宗にそのように言い聞かせて出た海は思いのほか穏かであった。
「HA、見ろよ元親、いい具合に全体が見えてきたぜ」
真っ白い息を吐きながら政宗が嬉しそうに目を細める。
「あぁ、こうやって改めて見ると壮観だなぁ」
二人が並んで海から景色を眺める。
元親にとっては何時もの風景であるが政宗にはあまり馴染みのない景色だ。
この地で暮らしている政宗にとって特別な景色なのだろうと元親は感じた。
「でもよぅ、わざわざ、今の時季じゃなくてもいいんじゃねえかぁ?」
独り言のように元親が呟く。
そんな元親の言葉を聞いてか政宗がニヤリと笑った。
「モトチカ~オ~タカラ~」
元親の相棒の鳥が一声鳴く
二人して眺める景色が薄い冬の日の光にほんのりと輝くように見えた。
「HEY、なかなか風流なこと言うじゃねえか」
「そうだろぅ俺が教えてんだからなぁ」
「HA、だが俺だったらもっと賢いこと教えるぜ 」
「・・賢い?・どんな言葉だぁ?」
「I LOVE YOU」
「どうゆう意味だ?」
「お前が好きだって意味だ」
「は・はは・・、誰に言ってんだかなぁ」
「聞きてえかぁ?」
「・・・・・遠慮しとくわ・・」
「HAHAHA」
暫くして、風が少し強くなってきた。
元親は風に体温を奪われて冷えてきたことを政宗に告げる。
「政宗、もう寒ぃから帰ぇらねえかぁ?たぶん兄さんも心配している・・」
「A~NN?寒い?情けねえなぁ元親」
「なんだぁ、寒ぃもんは寒ぃんだよ」
「HA・HA~、俺はお前えがその寒さに耐えかねて手前ぇから、
俺に暖めてくれと言って来るまで帰らねえぜ~?」
「なっ何言ってやがる?」
元親のうろたえっぷりにニヤニヤと政宗が笑う。
「HA~、俺とお前えの根競べだ~~~」
「・・・・・・・・・・・・・・」
冬の海の冷たさにどこまで耐えられるか、元親は自分の南国生まれを、少しだけ恨んだ。
---------------------------------------