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今になって思うこと

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 良い思い出か、と訊かれたら、まず即行で首を振る。横に。
 でも、悪い思い出かと尋ねられると正直反応に困るわけで――――そう、敢えて言うなら、やっぱりアレは『恥ずかしい思い出』ってやつなんだろう。ふとした拍子に思い出すと、意味も無く床を転げ回ったり叫んだり、とにかくその場から逃げ出したいと思うくらいには……。
 ――――でも。
 それなりに年月が経って、色んなことを経験する内に、もう二度と向き合うことも出来ないだろうと決め付けていた『アレ』を思い返して、あんなこともあったこんなこともあった……なんて、知ったかぶりが出来るようになった。
 アレ、とはまあ……フットボールフロンティアが終わったばかりの頃。
 イナズマキャラバンに乗ってあちこちで『宇宙人』を自称する連中と戦い続けていた時の事だ。
 当時は、『エイリア学園』なんていかにもな名前にわらう余裕も無くて、監督とはソリが合わず、どれだけ……どんなに強くなったと思っても、もっと『上』をいくチームが現れて――――。
 ――――辛くて、苦しくて……。
 一体、どこまで、いつまでこの状態が続くんだろうかと。
 悲観して、どうしたらいいか考えることに疲れた自分が選んだのは、試合で言う『棄権』宣言。
 イナズマキャラバンを降りて、チームから離れることだった。
 
  
「そう言えば、どうやって戻ったんだ……?」
「ああ、夜行バスだよ。もう電車は走ってなかったし」
 
 
 ちなみに、夜行バスの乗り場までは徒歩だった。監督はタクシーを使えと言ってかなり多めに現金を持たせてくれたけれど、あの時、自分は歩きたい気分だったから。
 誰もいない道を歩いていると、何となく、この世界には自分ひとりだけしか人間がいないような気がして、心細いような、安心したような……変な、気分だった。
 乗り場についてからバスのチケットを買って、1つだけ置かれた青いベンチに座って、バスを待つ。
 待っている間は何も考えないようにと思いながら、空ばかり見てた。
 
 
「バスに乗る直前まで迷ってた」
「……」
「自分で決めたことなのに、本当にこれで良かったのか――――って。俺は別にサッカーが出来なくなるくらいの怪我をしたわけじゃなかったし、あの時はまだ……戻ろうと思えば、それができる状態だったから」
 
 
 だから、バスの扉が開くその瞬間まで迷って、悩んで――――……。
 結局、自分は荷物を持ってバスに乗り込んだ。
 ――――今更、戻れるわけが無い。
 そんな意地のような想いが勝った。
 それに、戻って練習をしてもっと強くなって、あの『ジェネシス』を倒したところで、どうなるのか――――と。
 それが『本物のゴール』だと、一体誰が証明できる?
 走って、走って、いくら走り続けても、ゴールは遠ざかる一方だ。
 見えている筈のゴールテープが遠い。
 そして、いつまで経ってもゴールを抜けられない自分……。
 
 
「何て言うのかな……」
「……」
「……こう、自分では短距離走をしているつもりでいたのに、実はこれは長距離走でした、って途中で言われた――――みたいな感じ、だった?」
 言ってから、ちょっとこの例えはどうなんだろうと思って言い直そうかとも考えたけど、何だか向こうはそれで分かってくれたらしい。
 改めて、鬼道は察しがいいなぁ……と感心しつつ。
 テーブルの上で、ドリル用の大学ノートを押さえているその手が、丁度良い位置にいるから……そっと、自分の手を重ねてみる。
 ――――鬼道は、体温が低い。
 ちょっと冷え性でもあるらしく、特に冬場は手と足の先っぽが大変そうだ。
 かく言う自分はどうなのかと言うと、円堂ほどじゃないけど、まあ体温は高い方で。
 少しでも向こうがあったまればいいなぁと思いつつ、きゅ、と。ちょっとだけ、手に力を込めて――――。
「……今は、」
「ん?」
「――――ペースが掴めていると、言うことか」
 じろりとこちらを少し見上げてくる、赤い赤い、眼。
 目元の血色がいいのは、多分というか確実に自分が原因なんだろうな。
「……」
「……掴めてると、いいなぁとは、思う」
 言って、上手く自分が笑えていたなんて自信はこれっぽっちもないのだけれど。
 
 《終わり》
だって、ねぇ?
作品名:今になって思うこと 作家名:川谷圭