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神月みさか
神月みさか
novelistID. 12163
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ハッピー! バレンタイン

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《 静雄の場合 》



 道を歩いていたら、聞き覚えのある声が助けを求めていた。
 近づいてみれば、ノミ蟲に襲われているところだった。

 平和島静雄は人道的な理由から蟲を叩き潰すことにした。コンビニのゴミ箱で。

「おぶあ!!!」

 投擲すると間近にいる知り合いまで巻き込みそうだった為、手に持ったまま振り下ろしたのだが、珍しく避けられることはなかった。余程注意が他を向いていたのだろう。

「静雄さん――助かりました」
「おう、気ィつけろよ。蟲ってなぁ油断するとすぐにたかってきやがるからよ」
「はい。気をつけていたつもりだったんですが、足りなかったようです。今後はもっと気をつけます」

 優等生的な返答に、静雄は表情を緩めた。
 いつもならば追い討ちを掛ける筈の足元の蟲のことも、ついうっかり失念した。

 滅多に見られない静雄の笑顔に、帝人は数秒見惚れ、それから我に返って顔を紅くした。
 慌てて鞄を漁ったのは色々なことを誤魔化す為だ。

「あっ、あの、お礼というにはちょっとアレですが、良ければこれ、貰って下さい」
「あ? 別に礼なんて――ん? これ――」
「チョコレートです。お仕事で疲れたときにでも摘んで下さい」
「―――」

 静雄は差し出された小さな手のひらに乗せられている色とりどりのハート型の銀紙をじっと見つめた。差し出している帝人が気まずくなる程に、まじまじと。

「――あの……?」
「―――」
「静雄、さん……?」
「――チョコレート、なんだよな?」
「はい、あのっ……そうですよね、済みません! こんな日にチョコレートとか、気持ち悪いですよね? ごめんなさい、考えなしに――」
「いや、嬉しい。すげー嬉しい」

 力強く断言されて、帝人は更に紅くなった。
 静雄の大きな手は、チョコレートを受け取るのではなく、帝人の手ごとチョコレートを包み込んでいる。

「えっ、その、静雄さん、甘い物がお好き――」
「竜ヶ峰がくれたってのが嬉しい。ウチの事務員もくれたけどよ、昼飯の後で食ったが唯のチョコだった」
「あの、これも唯のチョコ――」
「こいつは『竜ヶ峰がくれたチョコ』だろ? 全然違う」
「へあっ……あのっ……」

 真剣な静雄の瞳に、帝人は激しく動揺した。
 なにしろとんでもないイケメンに手を取られて至近距離から見つめられているのだ。しかも臨也を発見した所為か、サングラスも取られており、某有名美形俳優に良く似た素顔が珍しくも晒されている状態でだ。動揺しない筈がない。

「あっ……あのっ、静雄さん、……手……」
「――駄目か? 握ってちゃよ」
「にっ……握ってると、溶けちゃいます……」
「――そっか……そうだよな、悪ィ……」
「――って帝人君、俺のときと全然態度違うじゃん!!」

 足元から無関係な男の声が聞こえたと思ったら、黒衣の男がコンビニのゴミ箱を跳ね飛ばしながらがばりと立ち上がった。
 がんごんがん、と音を立ててゴミ箱が転がり、中身のゴミが路面に散らばる。
 しかし残念ながら男はゴミまみれにはなっていなかった。食らったときにはふたが外れなかったのかもしれない。

「ああ? 生きてやがったのかゴミ蟲が」
「態度が違うのは当たり前でしょう。静雄さんと臨也さんでは」
「なんの差別!?」
「て言いますか、態度が違ったのは静雄さんと臨也さんの方ですよ」
「俺と蟲を比較すんな」
「俺をバケモノなんかと比べないでよ!」

 珍しく意見の合った戦争コンビだ。
 二方向から怒気を叩きつけられながらも、帝人は怖がる素振りひとつ見せなかった。むしろまだ握られたままの手の方を気にしている。

「だって、臨也さんにとっては、僕は特別でもなんでもなくて勘違いしちゃ駄目なんでしょう?」
「そっ……それは、そうだけどっ、だからなに!? 俺が人間全部を同じように愛してるのは帝人君も知ってるだろ!? 自惚れないでよ!?」

 不必要にプライドが高い臨也は、素直になれずに叫んだ。
 ツンデレというのは二次元では萌えるのかもしれないが、リアルにいれば唯の嫌な奴だ。

「――で、静雄さんは――」
「竜ヶ峰は特別に決まってんだろ。他の奴らと一緒になんてできるか。――なあ竜ヶ峰、これ貰ってってもいいんだよな?」
「――いえあの、僕の手は――」
「いいんだよな? 一生大事にするって誓うからよ」
「あの、チョコですよね? チョコの話ですよね? 大事に取っておかないで、ちゃんと食べて貰う方が嬉しいんですが――」
「え――マジか? 竜ヶ峰――食っちまっても、いいのか?」
「いえ、チョコの話ですよね!?」
「ちょっと俺を無視して話を進めるのは禁止――ごぶッ!」

 今度は素手での(但し平和島静雄における素手での)一撃を食らい、臨也は再び地面に沈んだ。普段ならば簡単にかわせる程度の攻撃だった為、余程他のことに気を取られていたのだろう。

 静雄はいつもならばとどめを刺さずにはいられない天敵を足元にしながらも、完全に放置したまま帝人を見つめた。

「――なあ、竜ヶ峰。持ち帰っちまってもいいんだろ?」
「いえそのっ、僕じゃなくてですね? それに静雄さん、お仕事中でしょう?」
「――そうだな。わかった」
「はい」

 帝人がほっとしたのも束の間で、いきなり膝裏に腕を入れられたと思ったら、そのまま片手で抱きかかえられた。

「はえっ!?」
「――あ、トムさん。すんません、有給使います。今日はもうあがります」
「ええっ!?」

 慌てて静雄へと振り向くと、もう片手で携帯電話で通話していた。

「あのっ、静雄さん!?」
「――はい。――っす。ありがとうございます」

 簡潔に通話を終えると、静雄は携帯をポケットに仕舞いながら帝人の顔を覗き込んだ。
 表情は、思わず見惚れてしまうような笑顔だ。

「仕事は終わった。だから持ち帰ってもいいな?」
「いえそのだからっ」
「トムさんはいいひとだよな。バレンタインデーにできた急用以上に急ぐ仕事なんざねえから、今日はもう終わりでいいってよ」
「あの静雄さんっ!!?」
「――ま、充分に味わって食わせて貰うからよ」

 ギャラリーの視線などものともせずに、静雄は帝人を抱え上げたまま歩き出した。

「マジで、すげー嬉しいぜ、竜ヶ峰。大事に扱うからな?」
「本当におふたりともひとの話を聞きませんね!?」

 お持ち帰りされた帝人のその後を知るのは、当事者ふたりだけのことだ。