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お題に挑戦した再録・藍→日編。

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新人隊員の配置辞令を受けた帰り、藍染は塀沿いに植えられた八重桜の濃い花の下を隊舎に向かってぶらぶらと歩いていた。満開の桜並木はずっと五番隊の隊舎近くまで続いている。

 桜の森の満開の下 とはまるでそれは闇のようだと思う。そう思わせるのは、覆い被さるような花の群れに空は見えず、地面と花の間にものが見え音があってもそれが自分の所まで届かないからだ。枝の細かな先まで、花の下にいる者と外にいる者を遮断しているのだ。そう、内にいる者と、外にいる者を。
 と、考えることに集中していたせいか、前からやってきた他の隊の隊員に気付くのが遅れ、避け損なってぶつかった。藍染の方はただぶつかった、で済んだのだが、相手は軽いのかなんなのか勢いよくころころと道の端へ転がってしまった。
「だ、大丈夫かい君?」
 慌てて駆け寄って手を伸べる。相手は胸でもぶつけたのか、軽く咳き込みながら
「大丈夫です」
 と立ち上がって袴の裾を払った。
 癖の強そうな銀髪が、花に映えて美しいなと思った。どこかの新人隊員なのだろう、真新しい死覇装を着て斬魄刀を落とし差しているのだが、本当にそうなのだろうかと少し疑った。それほど、目の前の新人隊員は子供だったからだ。
 疑われているのを感じ取ったのか、少年は真っ直ぐ藍染の顔を見上げて立つと
「今日から六番隊配属になりました、日番谷冬獅郎と申します」
 と言った。
「日番谷くん か。僕は」
「五番隊藍染惣右介隊長ですね、存じております」
「…隣の隊なら時々顔を合わせるかもしれないね。その時は、よろしく」
 はい、と日番谷はきれいなお辞儀をして、今藍染がきた道を歩いていった。


 副隊長の市丸が執務室に入ってきた時、藍染は椅子に深く腰を下ろし手を組んで眠っているようだった。机の側へ寄ると機械の様にパッと目を開けて市丸を見上げる。
「新人のお披露目やったでしょう、見ました?噂の天才児」
「市丸、私だよ」
「…なんや、アンタの方か」
 目の前にいるのがいつもの藍染ではないと分かって、市丸は机の正面に据えられた応接セットの椅子に腰を下ろした。
「惣右介くんは外のことをあんまり教えてくれないよ。なんだい、噂のって」
 ねだるように机の上に身を乗り出してきた藍染に、市丸は今度の新人に学院を最年少で首席卒業した者がいるのだと簡単に教えてやった。
「銀髪の、何やきかなそうな子ォらしですよ」
「……あぁ、あの子かな」
「知ったはるんですか?」
 意識の闇の隙間から見た、日番谷と名乗った少年の顔を思い出す。確かにきかなそうな、どこかつんと澄ましたような雰囲気がある。
「気にいらはったんですか」
「…そうだね。頭の良い子は、私は好きだよ。惣右介くんも気に入ってたようだったし」
 軽く笑って、藍染は自分が座る場所の後ろにある窓を開けた。そこからは桜の並木の上が、まるで赤い川のように見える。
「……良い玩具を見つけた、と言ったら惣右介くんは怒るかなぁ?」
「さあ…聞いてみたらどうです」
「そうだねぇ」

 聞いてみようにも、主人格だった彼は昔自分がそうだったように最近は意識の下に潜り込んでしまうことの方が多くなっている。それだけ自分の力が増してい
るという証拠でもあるのだが。
 彼が日番谷を気に入ったようなのは確かだ。もちろん自分のように玩具としてではなく、だ。


「まぁまだ時間はたくさんあるからね……楽しませてもらうとするよ」


          了.