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神月みさか
神月みさか
novelistID. 12163
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情報屋さんの身分証

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「ね、ホラ見て」

 目の前に差し出された運転免許証と思しきカードに視線を向け、帝人は感情のない声で呟いた。

「――この距離では焦点を合わせられません」
「あ、近すぎた? ゴメンゴメン、よく見て欲しくてさ!」
「未就学児童ですか貴方は」

 目の前5センチにかざされていたカードが引かれ、20センチにまで離される。
 そこでようやくまともに見れるようになったそれは、やはり運転免許証のようだった。

 ――が。

「これは永遠の21歳を証明する為に作ったんですか?」
「え? まず見るトコそこ?」
「5月4日生まれが本当でしたら、子供の頃から毎年誕生日には友達に『おめでとう』のひと言も貰ったことはなかったんですね」
「え!? まず考えるコトそれ!?」

 その免許証を模ったカードには、臨也の顔写真が写されているにも関わらず、まったく異なるプロフィールが記されていた。ちなみに生年月日欄の年の部分を見れば、今よりも21年前だ。
 つまり、偽造免許証ということだ。

「どうしたんですか、臨也さん。刑法には明るくないですが、これは持ってるだけでは犯罪にはならないんですか?」
「ふふーん。いいだろ。今日出来上がってきたからさ、帝人君に見せてあげようかと思って」

 まったく会話がかみ合っていないが、このふたりにとってはそれで通常運転だ。
 臨也は帝人の問いをさらっと流して、他はどう? 気になるとこはない? と上機嫌に訊ねた。

 気になるところは山盛りだったが、帝人は取り敢えず一番基本的な部分に突っ込んだ。

「オートマ車しか運転できないんですね、臨也さんは」
「ねえ普通そこ、『車を運転できるんですね』って言うべきとこだろ? てゆーか中型車は運転できるし」
「それと、証明写真は正面を向いて写すべきではないかと思います」
「この角度、格好良く見えない?」
「キメ顔がウザイです」

 帝人は呆れ果てたかのような溜め息と共に吐き捨てた。
 そもそも運転免許証には『正面から写した証明写真』が不可欠の筈だ。こんな写真を堂々と載せていては誰の目にも偽物だと一目瞭然だろう。

(――あ、そもそも身分偽証に使うつもりはないのかな? 臨也さんなら唯の洒落でこんな物も作りそう……)

 こうやって帝人や知り合いに見せて遊ぶ為だけに用意したと言われても、納得できてしまう。なにしろ臨也はひとで遊ぶのが生き甲斐のような男だ。
 事実、今現在非常に楽しそうに帝人を構っている。

「ねえねえ、他には? 他にもあるだろ? 気になるところ」

 にやにや笑いながら催促されて、思わず辛らつな台詞で切り捨てたくなった帝人だったが、このひと相手にこの程度でそんな対応をしていては労力の無駄になることに思い至り、他にも突っ込むべき部分に目を向けた。

 ちなみに帝人にとっては、突っ込みに掛かる労力はほぼゼロである。本能と反射だけでナチュラルな突っ込みから鋭い突っ込みまでやってのけられる。
 紀田正臣に幼い頃から鍛えられた成果かもしれない。

「臨也さんて、目が悪かったんですか? 確かに視点という意味では最悪ですが」

『ホラ眼鏡、格好いいでしょ』と言いながらブランド物の眼鏡(伊達)を取り出そうとしていた臨也は、途切れることなく続いた帝人の台詞に軽くコケた。

「ちょっ、俺の視点は鋭くて的確だろ!?」
「――え?」
「なんでそんな『なに言ってんのこのひと』みたいな表情するの!? ひどいよ帝人君!!」
「なに言ってんですか、このひと?」
「態々言葉で追い討ち掛ける必要ないから!!」

 臨也は地団太を踏んだ後、免許証(偽造)をずいと帝人に近づけた。帝人が後退らなかった為、カードと目の距離が10センチにまで縮まった。

「他にも見るべきところがあるだろ!? ホラ、住所とか!! 住所とか!!」
「ですからこの距離では見えないと――あれ?」

 そこまでは気をつけて見てはいなかった(他に見所が多すぎた)帝人だったが、再び少しだけ離されたカードの住所欄を読んで軽く首を傾げた。

「臨也さんの住所は新宿じゃないんですか? 東池袋って――あれ? 3-○-×って……」
「あ、気付いた? 気付いちゃった?」

 自分で読むように強要しておきながら、臨也は嬉しそうに声を上げた。

「――臨也さん」
「ん?」
「いつの間に僕と同じアパートに引っ越してきたんですか?」
「やだなぁ、これから移り住む予定だって」
「お隣の部屋が留守がちでしたが、退去が決まったんでしょうか? 三畳間はかなり狭いですよ?」
「違うよ。わかってて言うんだから、帝人君はツンデレだよね! 帝人君と同居するって言ってんだよ」
「成人男性を置くスペースはありません」
「だったら俺の部屋に帝人君が来てもいいよ。てゆーかそれがいいな。池袋は邪魔なバケモノが出現するからね」

 てゆーかプロポーズだって気付いてよと続ける男に眉をしかめ、帝人は氷点下の声で言い捨てた。

「僕、頭の悪いひとは好きになれません」
「え? 頭? やだな、帝人君は知らないだろうけど、俺の大学――」
「できるだけ早く病院での検査を受けてきて下さい。完治したと僕が判断できたら続きを聞いてあげます」
「え!? 頭ってそっち!?」

 病人を差別する気はまったくない帝人だったが、目の前の男だけは是非とも差別したかった。

「医師の診断書はいりませんから。ついでにそのまま入院して二度と目の前に現れなくても構いませんから」
「ちょっ、今日はいつにも増して辛らつじゃない!?」
「え? 労力が無駄になるので奈さん相手には辛らつな対応をやめようと思ってましたよ?」
「嘘だよ! それに奈さんってなに!?」
「正臣に突っ込むときはもっとずっと厳しいですよ。それに、奈さんでしょう? だって氏名が『奈倉』になっていますから、苗字は奈さんでいい筈ですよね?」
「――あっ!!」
「――ああ、下の名前がいいですか? 倉さん」
「ちょっと待って!! ちょっとした間違い!!」
「『やあ☆クラさんだよ♪』とか言ってみて下さい。指は3本ちゃんと立てて。もしかしたら好感度が少し上がるかもしれません」
「なにそれ、なんで帝人君の年齢でそんな昔の教育番組知ってんの!!」
「平成2年生まれもあまり知らない筈ですよ?」
「いいでしょ、俺は永遠の21歳なんだからーッ」

 ネタが一周いたことを確認した帝人は、ならばもう臨也も満足しただろうと思い、偽造免許証を仕舞うように促した。
 しかし何故か臨也は心から不満な様子で叫んだ。

「帝人君の馬鹿馬鹿馬鹿っ!! 帝人君が来てくれないならやっぱり俺が帝人君の部屋に移るから!!」
「そうしたら、僕はどこに移ればいいんですか。正臣のところは駄目だし――あ、静雄さんのお宅ですか?」
「馬鹿ーッ!! 鈍感ーッ!! なんでそんなにツンばっかりなのさーッ!!」

 臨也の絶叫を聞きつけた自動喧嘩人形が道路標識を片手に現れるまで、後――

作品名:情報屋さんの身分証 作家名:神月みさか