今日も平和だなぁ
世界に一人きり、自分だけがいたとして。
自分以外の生命が何も存在しないとして。
はたしてそれは平穏だと言えるだろうか…?
そう、独り呟いた。暗闇の中に静かに紛れていくはずだった問いかけに答えが返ってきた。
「変なヘッド」
これが答えになっているのかも定かではないが、いつの間にかトイレから戻ってきていた、自分の独り言に返答した鳥籠の中の少女を見つめる。
「おかえり、サカナちゃん。早かったね」
「ただいま。もしかして…わたしセクハラされてるの?」
「おっと…ごめんごめん。レディに向かって失礼だったね。謝るよ」
詫びを入れるように少女に頭を下げれば、いいよ、と返ってきた。
それに顔を上げてみれば少女は何やら口を大きく開けて、何かを吸い込んで、ゴックン。喉を鳴らしている。
その不思議な行動が気になり少年は少女に問いかけた。
「何をしているんだい?」
そして、少女は答える。
「空気を食べてるの」
ぱく。そう言うとまた口を大きく開けて空気を吸い込む作業を再開した。
そんな不思議な行動をする彼女を見て、少年は少し考えた。
この、虚無感は何だ…いつもとは違う、ダラリと流れる時間に苛々とするでもなく、退屈するでもない。
そしてまた、空虚でもない、この気持ち心地。
これは何だ、心の中でその言葉を唱えた。
けれど、やはりと言うべきか自分を見透かしたようにそれも少女によって答えが返ってきた。
「ヘッドは寂しがり屋なの、だけど誰にも甘えたりしないから、もっと、淋しくなるの」
鳥籠の中の少女は、またいつの間にか自分の目の前に立っている。
「だからこうやって、誰かがヘッドを抱き締めてあげなきゃいけないのよ」
細い、白い腕が自分の頭を抱え込んで少女の胸へと引き寄せた。
すると聞こえてくる心音。どくん、どくん。少女の命の音がする。
聞きながら少年は思う。
【今日も平和だなぁ】