BLEACH NL中心詰め合わせ。
October. / ギン乱・2004.5.23
「ギン。…ねぇちょっとギン!」
乱菊の苛立った声が、地獄蝶を納めて戻ってきた市丸を追う。
「今日の魂葬、二人でって指令だったでしょ!?なんで一人で行っちゃうのよ」
「ええやん、ちゃんと片してきたし」
そういうことじゃないわよ、と言いさしたが、止めた。市丸の実力なら、『二人で』の指令に従う必要はないし、従いたかったのはこちらの都合で、普通なら楽ができたと喜ぶところだろう。
乱菊は、言葉の代わりに溜息を吐いて、市丸の横に並んで歩き出した。
「つまんない事言うの、やめとく。来週には五番隊配属だもんね。しかも副官」
「うん」
「同期の中じゃ一番の出世頭ね。…おめでと」
市丸は、口の端を歪めたまま応えなかった。
「嬉しくないの?副官よ、隊長席に一番近いのよ?」
「嬉しいよ。ただ副官いうたら隊長さんの雑用係みたいなんと違うかなぁて…」
「はぁ」
「それ考えたら、なんやメンドでなぁ」
「なに贅沢言ってんのよ、怠け者」
小突かれそうになるのを首を竦めて逃げ、市丸はふと立ち止まった。乱菊も、それに従う。
官舎同士を繋ぐ渡り廊下は所々屋根がなく、場所によってはひどく見晴らしが良い。彼らの立った場所もその一つで、白灰色の壁の隙間を埋めるように、遥か流魂街とを隔てる城壁までも見えた。
腹を空かせ日に焼け汚れていた二人の子供は、あの城壁を越え美しく成長した。だがそれは外側だけの事で、中は何一つ変わっていないと思っている。少なくとも、乱菊は。
「…あたしたち、随分遠くまで来ちゃったのね…」
乱菊は横目で市丸を見た。思いがけず、市丸もこちらを見ていた。
「一緒にあれを越えてここまで来たけど…とうとうあんたに先行かれちゃうのねぇ。そしてきっと、あっという間に隊長昇任」
すぅと目を細めながらまた城壁へ視線を移すと、それらは落ち始めた陽を受けて赤く染まり出していた。
「あたしなんか、及ばないとこへ行っちゃうのねぇ」
おそらく今日が最後だった。同じ目線で、一緒に仕事をする日は、一緒に歩ける日は、もうニ度と来ないだろう。
乱菊はそんなことを思いながら、またちらりとギンを見た。ギンは、背中を夕陽に焼かれながら同じように城壁を見ていた。
「お腹空いた」
「……は?」
ギンは突然乱菊の手を取って歩き出した。
「湿っぽい事言うから、お腹空いたわ。なんか作って」
「何よそれ、どういう神経してんの!?ちょっとくらいしんみりしたらどうなのよ!」
「しんみりしたって決まったんはしゃあないやろー。なー、ゴハンー」
「知らない!その辺で食べてけば!?あぁもうヤダヤダ、似合わない事言って損した!」
「僕、餃子食べたいわー」
「知らないってば」
それでもその手は離さないで。あと、少しだけ。
■END.■
作品名:BLEACH NL中心詰め合わせ。 作家名:gen