夜に潜む
冴え冴えとした月光に照らされる石造りの町並みを眺め、彼は
あと数刻で交代の時間か、とぼんやりと考えていた。
勤務明けに広場突き当たりの酒場で一服やろうか悩む彼の首筋に、
熱鉄を注ぎ込まれたような痛みが襲い、彼の意識はそこで途絶えた。
「間抜けが」
港町アッカの城壁に凭れるように身を隠しながら、アルタイルは先ほど
屠った衛兵に対し一言漏らした。
いかにも練度の低い新兵だったらしい、お粗末さを思い出しアルタイル
は口元を歪ませる。
「こちらとしては、好都合だが」
夜陰に乗じ、迅速に標的を成敗せよ。
与えられた任務はアッカに住まう豪商、彼の者の罪深さはアッカの民に
大いなる悲しみを与える。
脳裏で遂行までの進行、逃亡ルートを素早く組み立て、白衣の暗殺者は
アッカの町へと舞い降りていく。
夜が明ける頃には、彼の者に死が訪れるだろう。