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神月みさか
神月みさか
novelistID. 12163
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たとえばこんなバレンタイン

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 竜ヶ峰帝人には付き合っている相手がいる。
 スタイルが良くて手足のすらりと長い、年上の美人だ。帝人としては正直なところ、自分なんかにはもったいないひとだと思っている。
 性格も、仕事のときなどはとても厳しいらしいが、帝人といるときにはいつでも優しくて、年上らしい余裕もあって、まだ学生に過ぎない帝人を甘やかしてくれさえもする。

 竜ヶ峰帝人は付き合っている相手になんの不満もなかった。
 ――いや、唯一点を除いて、不満はなかった。

 その不満というのは――





「ええと、静雄さん?」
「んー?」
「あのですね、今日は僕、ちょっと、買い物に行きたいというか――」
「んー……」
「その……バレンタイン、ですし――ちょっと、デート、みたいなことがしてみたいな、って……」
「――ああ、そうだな。それもいいな」
「だから、ですね――」

 帝人は自分のシャツのボタンを外している静雄の手を掴み止めた。

「今日は、こういうのはやめましょう?」
「………」

 静雄はむっとした表情で動きを止めた。
 それもある意味では当然と言えるのかもしれない。恋人をベッドに押し倒した状態で寸止めを掛けられれば、男であれば誰でも不本意にも不条理にも思うだろう。

 静雄も憮然としたまま言った。

「――この状況で、んなこと言われてもよ……」
「――すみません。ですが、言う暇がなかったものですから……」

 帝人が静雄の部屋を訪ねたのは、2月14日の夕方のことだった。静雄が休日だと聞いていたので(態々休みを取っておいてくれたのかもしれない)放課後チョコレートを持っていそいそと訪れたのだ。
 静雄は帝人を歓迎し、チョコレートを喜んで受け取って、手作りであることを知って感激した。
 そして溢れる感情のままに帝人を抱き締め、そのままベッドに押し倒した。

 玄関のドアが開けられてからここに至るまでの時間は、僅か5分足らず。
 今後の予定の希望を述べる暇などどこにもなかった。

 しかし静雄はそれでも不満そうだった。

「――今、すげえお前に触りてえんだけど」
「えっ、そのっ、帰ってきてから、とか――」
「んなに待てねえっての。――ったく、手作りのチョコとか、んな可愛い真似されて我慢なんかできねえっつーんだよ」
「可愛っ……そういうことは言わないで下さいって言ってあるでしょう! そっ、それにチョコやなにかとは関係なく、いつも同じ反応じゃないですかっ!」

 そう。
 帝人が不満に思っているのはこのことだった。

 恋人である平和島静雄は、帝人に優しいし酷いことも意地悪なこともしない。
 けれど、帝人とふたりきりになると、必ずといっていい程行為に及ぼうとするのだ。そのときばかりは、帝人がどれだけ諭しても聞いてはくれない。嫌だと言ってもやめてと言っても聞き届けてはくれない。
 おかげでふたりでどこかに出かけたことなど殆どない。

 折角のバレンタインデーなのだから、今日こそは恋人同士らしいことをしてみたいと思い、注意しながら静雄の部屋を訪ねた帝人だったが、結局いつもと同じことになってしまっている。

 不満をぶつけるように言ってみた帝人だったが、静雄にはまったく通じていないようだった。いつものことだ。

「そりゃそうだろ。帝人はいつだってスゲエ可愛いからよ」
「しっ……ずお、さんっ! だからっ、そーゆー……」
「言うなっつーから、なるべく言わねえようにしてるけどよ、なにしてても、どんな顔してても、スゲエ可愛い」
「言わないようにって……言ってるじゃないですかっ!」
「言わねえようにしてるって。可愛いって思ったときの10回に9回は言わねえようにしてる。まあ、たまにぽろっと漏れちまうけどよ」
「――っ!?」

 静雄は帝人に会うと、どれだけ注意しても必ず何度も何度も可愛いと繰り返している。
 それが思っている数の十分の一以下だなどと言われては、最早返せる言葉など見つけられない。

 それをいいことに、静雄は自分の話を勝手に進めてしまう。

「チョコ渡してくれたときの顔も、礼言った後に見せた顔も、さっきの膨れてた顔も、今の真っ赤になっちまってる顔も、全部可愛くて、可愛くて、食っちまいたくなる。てか、我慢できる訳ねえだろ、んな可愛い顔ばっか見せ付けられてたら」
「~~っ!!」
「勿論、顔だけじゃねえし、可愛いのは。そうやって唇噛んでる仕草とかよ、さっきの上目遣いで睨みつけてくるのとか、後――」
「――もっ、もういいです、それ以上言わないで下さい~~っ!!」

 これ以上恥ずかしいことを聞かされ続けては、卒倒してしまいそうだ。
 帝人は必死で制止を掛けた。

 静雄はまだまだ言い足りない様子だったが、帝人の要望に従って言葉を止めてくれた。事に及んでいる最中でさえなければ、静雄はいつでも帝人に優しいのだ。

 しかし続いた言葉は帝人の意に沿うものではなかった。

「じゃあ、続けていいんだな?」
「―――」

 帝人は大きく溜め息を落とした。
 なにやらもう、仕方がないなあ、という気分になってしまってきていた。これもいつものことだ。

 結局、この件に関しては、いつも帝人が負けるのだ。
 帝人自身静雄と肌を合わせるのが嫌な訳ではないのだし、恋人同士らしいデートやなにかをしていないことがちょっぴり不満なだけのことなのだ。

 それでも悔しくて、帝人はぽつりと零した。

「たまには、静雄さんとお出かけして、このひととお付き合いしてるのは僕なんだって、見せ付けてやりたかったです……」

 日本中がカップルで溢れかえるこの日なら。
 たとえ世の恋人同士のように手を繋いだり腕を組んだりしていなくても、ふたりで道を歩いたり買い物や食事をしているだけであっても、不釣合い過ぎて誰も恋人同士だなんて発想に至らなくたって、それでも池袋の街のひと達は、『恋人よりもあの子の方を優先しているんだ』という目で見てくれそうな気がしたのだ。

 しゅんと肩を落としてしまった帝人に、静雄も少し考え込んだようだった。
 静雄は基本的な部分で帝人に甘い。

 数秒、帝人を組み伏せたまま動きを止めていたが、やがてそっと耳元に口付けて、囁いた。

「――悪ィ。やっぱ、駄目だ。俺はこんなに可愛い帝人を他の野郎共の目に触れさせて平気でいられる程、辛抱強くはなれねえ」
「しず――」

 独占欲が強くて自分に自信のもてない男は、自分の名前を呼びかけた不釣合いなくらい可愛い恋人の唇を、自分のそれで塞いで反論を封じた。