あなたへ捧ぐヴェンデッタ
「だって本当に思ってるもの」
レイジの寝台を我が物顔に占拠して、シンゴは笑う。寝台を奪われたレイジはと言えば、何時もはカタシロに座らせているソファへ、呆れた笑みで腰掛けている。シンゴは頭の方を下に俯せに寝転がったまま、視線だけはレイジと絡めて同じことばを囁いた。
「レイジなんか嫌いだよ」
「また、どうして。何時もは好きだって言ってくれるじゃない」
「どうしてかなんて判ってるでしょ?」
「判らないから訊いてるの」
「嘘。じゃあレイジ、俺にねだってごらん?教えてって頼んでごらんよ」
「教えて、シンゴ」
「……しょうがないなあ、もう」
シンゴは上半身を起こして寝台に肘を吐くと、とある物へ顎をしゃくって見せた。レイジがそっちを見て、初めてそれに気付いた、なんて風に頷いてなんか見せたものだから、浮上しかけたシンゴの機嫌は、やっぱり急降下する。
レイジの視線の先には檻。中身は空。もはや只のオブジェとしての意味しかなさないそれ。
「……俺だって歌えるのに」
「君の歌は好きだよ」
「あんなまずそーな白身ザカナよりよっぽど上手く歌えるのに!!」
「そうだね」
「じゃあ、じゃあ、じゃあじゃあじゃあじゃあじゃあ!!!???
なんで、俺じゃだめなの。」
レイジは笑って答えなかった。シンゴは、うう、と唸って寝台へ突っ伏す。くやしい。なんで俺は巫女じゃないの?
「……れーじ」
「はい」
「次は誰を飼うの」
「良く判ったね」
「あんな邪魔なもの、必要でもないと置いとかないでしょ!!もーー!!ばかーーー!!!」
「ごめんね」
「思ってもないこと言わないで!」
レイジは椅子から腰を上げると、寝台を叩いたり足をばたつかせたりと大暴れするシンゴを、覗き込むように身を乗り出した。
シンゴが暴れるのをやめて、上目遣いにレイジを恨めしげに見る。レイジは相変わらず笑ったまま。子供扱いされるのは嫌なのに。
「……判ってるんだから。シンドウんとこのクソガキでしょ」
「うん」
「俺の方がレイジのこと好きなのに!向こうはレイジのことなんか何とも思ってないんでしょ?」
「多分ね」
「じゃあ、やめようよー俺にしとこうよー」
「それも良いかもね」
「思ってもないこと言うな!!」
乾いた打音が静かな室内に響いた。シンゴがレイジの頬を張ったのだ。しかもそれだけでは気が済まなかったらしく、シンゴは返す手でもう片方の頬も張る。挙げ句の果てに飛び掛かろうと身を起こしたシンゴを、流石にレイジは止めた。
「シンゴ」
「…………」
「ごめん」
「口先だけの癖に」
「違うよ」
「嘘」
「嘘じゃない」
「証明して――……」
シンゴが言い終わる前に、もう二人の唇は重なっていた。触れるだけのキス。物足りなくて再び口付けようとしたシンゴを、二人の唇の間に指を挟んでレイジが止めた。シンゴはち、と舌打ちすると、指先がふやけるほど長くレイジの指先を舐めた。極めつけにはレイジの指へ噛み付いて、一筋の血を流させる。
シンゴは美味しそうに啜った。
「レイジ」
「何」
「すき?」
「好き」
「あいしてる?」
「愛してる」
「………許す」
ちゅぱ、とわざと音を立ててシンゴは指を解放した。
「おれのれーじ」
「はい」
「おれに頼みたいことあるでしょう」
「うん」
「だよなあ。うん。承諾したよ」
「ありがとう。愛してるよ」
「知ってるよ」
シンゴはにやっとあまりその顔付きにそぐわない風に笑うと、レイジの両の頬を両の掌で包み込んだ。慈しむと言うよりは、拘束。おれからにげられるとおもうなよ、おまえ。
「おれは、お前の道具か」
「そうだよ」
「そうだ。お前だけのツール。お前のvendettaのツールだ。だからお前はおれを離せない」
「そうだよ」
「レイジ、好きだよ」
そしてシンゴはレイジを解放する。だからレイジはそれでやっと、シンゴにキスをしてやった。舌を絡めるのはいつも気の短いシンゴの方からだ。
運命と言う仇敵を喰らいたいとねがう、
貴方へ捧ぐ復讐劇。
作品名:あなたへ捧ぐヴェンデッタ 作家名:みざき