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たとえこれが意味のないことだとしても

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今日も殺しの仕事が入った。
今回は、薬を裏で流す手引きをしていたお偉いさんだ。

薬の流出ルートを押さえた記者の嫁さんからの依頼だった。
その記者は口封じのために殺されちまった。
嫁さんからはそのお偉いさんを殺してほしい、麻薬の密売を消してほしいと。


まったく。涙流せばいいってもんじゃないんだぜ。奥さん。
まぁ、男は女の涙には弱いんだがな。



お偉いさんを殺るのはそんなに難しくなかった。
薬もまとめて海に沈めてやったさ。
終始見ていた嫁さんはやっぱり泣いていた。
そしてごめんなさいといった。

あなたに人殺しをさせてごめんなさいと言った。


おらぁ、驚いたね。
そんなこと言われたのは初めてかも。
むしろ女に人殺しさせるほうが俺は忍びないね。うん。

でもと言いった。

あなたの瞳すごく悲しそうよ。


そんなこと言われたのも初めてだったからさらにたまげたね。
驚きすぎて普段なら言わないであろう言葉が出てきてしまったのも
仕方がないことだと思う。



あんたみたいに普通の人間に生まれてないから
これは俺にしか出来ないことで、
あんたには出来ないことで、
俺みたいなクソみたいな人間にこそお似合いな仕事だったろ。
あんたは謝罪じゃなくて、お礼をするべきじゃないか。



そいうと嫁さんは悲しげな顔だったのをさらに悲しげにして
ありがとう、とまた泣きながら言ったのだ。





嫁さんと別れて、いつものように飲み屋に入った。
嫁さんからは依頼料ですといって封筒が分厚くなるぐらいの金を貰った。
こういう金はあいつらには使わせたくないと思う。
俺が自分のために消費してそれでなくなればいいと思う。
あいつらの生活する金はちゃんと万事屋銀ちゃんとして稼いだ金を使いたい。
これはおれのエゴか。

そんなことを考えていれば酒を飲む手は止められず、二杯三杯とすすんでいく。

酒のせいで視界が心なしか霞んできた頃、
俺は店のおやじに金を払って、いつもより遠回りしながら帰る。

ふらふらとする足取りを自分で見下ろしながら思う。

先生ところに身を寄せた自分
仲間と共に何かを懸けて戦った自分
ババアに拾われた自分
新八と神楽と暮らす自分
そして命を奪う自分


酔っているせいか思考がバラバラだった。
でも最後に行き着くのは命を奪うということだった。
そして殺したお偉いさんの顔が浮かんだ。
…奴にも家族があったのだろうか。
嫁さんがいて、娘がいて、息子がいて、ペットがいて。
そうして次にあいつらのことを思い出した。

おはよう銀ちゃん、今日も卵かけごはんある。またかよ。文句ゆうなヨ。ヘイヘイ。
銀さんまたパチンコ行って来たんですか。今月家計苦しいの知ってるでしょあんた。
あとまた糖分取りすぎ!お医者さんに言われてるんですからしっかりしてくださいよ。
うっせーなわっかったよ。おまえは俺の母ちゃんかよ。
銀ちゃん、銀ちゃん…、
銀さん…。


俺が人を殺してくる日、
いつも心配げな顔をしながら声だけは不機嫌そうに装っておかえりを言う神楽。
悲しそうな困ったような顔をしながら介抱してくれる新八。


ガキだと思っても目ざとい奴らだなーと思う。
そしてやさしい奴らだなとも。
俺が人の命を消すことをあいつらは勘づきながら
知らないふりをして、俺もそれに気づかないふりをして。

馬鹿だなとも思うが、この状態を壊してはいけないと思う。
ずっと演技を続けてくれればいい。
ずっと知らないピエロでいてくれ。
おれはそれを知らないピエロで居続けるから。

だから


そう思ったところで万事屋の下に着いていたことに気がついた。



あいつらは今日も甲斐甲斐しく俺の世話を焼くんだろう。
そうだ
それでいい。
だから
どうか

この平凡な日常を
続けてくれ。




そうして俺は日常の中へ帰るために
玄関の戸を騒がしく開けるのだ。