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ただ、今日もあなたの望むものをあげよう。

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今朝は早めに万事屋に向かった。
自分の感はこういうとき割と当たるのを知っている。


万事屋に入ると玄関でカエルのようにのさばっている上司を見つけた。
朝っぱらから酒の匂いを体から漂わせている上司は迷惑この上ない。


銀さん銀さん起きてください。こんなとこで寝たら風邪ひきます。
そう言うと新ちゃんお水―と言いながら情けない顔を向けてきた。
はいはい。持ってきてあげるからブーツを脱いでおくこと!いいですね。


水を持って戻るとめずらしく言うことを聞いた上司は玄関で正座して待っていた。


はいどうぞ。
んーさんきゅな新ちゃん。
銀さん、部屋へ上がったらどうです。
手伝って…。
はいはい…。


やはり僕の感は当たっていたようだった。
銀さんがいつもよりちょっと甘えてくるときは、
銀さんが僕らにはさせない仕事をしてきた時だということ。



銀さんからは酒の匂いに混じってわずかに潮のにおいがした。
今回は海に行ったのかな…。
僕が知り得たのは本当にそれくらいで、
銀さんはなにも言わなかった。


上司専用の部屋に布団を敷いてやってから、彼をそこに寝かせてやる。
布団をかけた時すでにいびきが聞こえてきた。
そんな上司の顔をじっくりと観察した。



そこには僕の知るいつも通りの彼の寝顔があり、彼のしてきた行為を匂わせる
痕跡は何もなかった。

銀さんは何も語らない。

今までの人生も、
今までしてきたことも、
何を考えているのかも。



けれど一緒にいて長い時間が経って
銀さんのことがだんだんわかるようになってきて。

銀さんはすごく適当なんだけど、でも人を傷つけることは絶対しない人
自分の心を最後までつき通す人。
そして、自分のために生きられない人。


きっと昔も今もそうやって生きてきたに違いなかった。
この人はそういう人だった。



だからこの人が人殺しになった日の朝も、
銀さんにお水をあげて布団に運んで寝かしつけて。
僕はこうしてここにいるのだろうと思った。


自分を犠牲にして他人に何を与えるのだろう。
何を求めているんだろう。
何を…。


そう思ったところで神楽ちゃんの起きる音がした。
きっと神楽ちゃんも僕と同じことに気が付いているに違いなかった。
けれど僕らの間でこのことは話題にならない。
いや、してはいけないのかもしれない。


僕らが銀さんのしていることを結論付けるのは
余りにも高慢な気がする。


それでいいのかもしれない。
答えはだすべきではないのかもしれない。









さあ、日もそろそろ登ってきたし朝ごはんでも作ってあげようか。
大食い娘も腹をすかせて待って居るだろう。
今日は銀さんの好きなものにしてあげようか、
普通よりちょっと甘めの卵焼きと、甘めの煮物と。




数十分後にはいつもの騒がしい朝になるだろう。
だけど僕はそこにほんの少し、いたわりの気持ちものせてみる。
それくらいのやさしさを
彼にはあげたい気分だった。