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こんなバレンタインで大丈夫か?

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「そもそも、バレンタインにチョコレート云々というのは日本の製菓会社の陰謀であって。」音無センセによる有難い(長い)お話が始まるのだろうか、色とりどりの可愛いラッピングのそれを紙袋一杯にぶら下げて何を言う、と言ってもそれは俺も同じで、要は戦線の女子たちにほれほれ喜び咽び泣けと配られたそれなのだが。それよりも女子同士できゃいきゃいと渡し披露しあっていたチョコレート様様のほうが余程手が込んでいたような、など、言おうものならせっかく恵んで頂いたそれさえ取り上げられそうだったので黙っていたけれど。この2月14日は時と共に形を変えていっているようだ、そのうち(バレンタイン?女子同士のイベントだよねー?男子がどうしたって?)とかなるんだろうか、おおこわいこわい。しかし、音無のぶら下げている紙袋の方が俺のよりも倍ほど重そうでらっしゃるのはあの自称神である生徒会副会長様のおかげであって、チョコレートから飯のおかずになりそうなものまで、困ったように笑う音無の顔と当の音無さえ見えていないのではないかと思う程輝いていた直井の目を思い出して、ああこわいこわい。それに比べれば女子のじゃれ合いのなんと可愛いことか。「おい、日向聞いてるのか?」聞いてないですとも。製菓会社の陰謀も愛に散ったいつぞやのローマ皇帝の実はちいとグロテスクな歴史もこの時期よく聞く話である。で、だ。音無センセは一体何の話がしたい?「そもそも何故結婚を禁止したかって、愛する者を持つと弱くなるから、だそうだ。禁止するくせに随分ロマンチックに愛を語っているように聞こえるな。それに抗った司祭が処刑されたのが今日な訳だ。まさに愛の日、恋人たちの日という訳だが。」ききい、大層なお話を続けながら先生様はゆりっぺの特等席である校長椅子をあろうことか足で軽く蹴飛ばしてどかす。ゆりっぺがここにいたら野田のハルバードが飛んできて即死物だ。まぁ、ここには野田もゆりっぺも、俺達以外の誰もいない訳だが、皆さまあちらこちらでチョコレート戦争中である。蹴飛ばした椅子の行方になど目もくれずその手は窓を開け、「まぁ、陰謀はさておき、このチョコレートも愛の象徴な訳だ。」カーテンが、彼の橙の髪を撫でる、「さて、日向、それでだ、」紙袋を持った手をゆっくりと窓の外に、そしてその手を、離す。それなりの高さだ、ドサ、なんて可愛いものじゃなかったが落下音と下にいたであろう生徒達の驚きの声をやはりカーテン越しに聞く。もしかしたら誰かの頭にでも当たったのかもしれない、下手したらお陀仏じゃなかろうか、とんだ流れ弾だ。「お前のそれもここから落とすか、それともお前ごと俺と一緒に落ちるかだけど、どっちがいい?」男の顔はカーテンで見えない。答えは、決まっていた。