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【三吉】甘え合うしあわせ

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「突然こんなこと聞くのもどうかと思うんだけどさあ」

所は大阪城。
縁側状になっている小さな中庭で三成と幸村が手合わせをしているのを肴に茶を飲みながら、どこか遠くを見たまま猿飛は言った。

「いつから見えてないの、目」

先程まで二人揃うとぎゃあぎゃあ五月蝿いわと言いながら目を細めていた大谷は、隣の猿飛の突然の言葉に驚いて飲みかけの茶を吹き出しそうになる。
うっかり気管に入りそうになりごほごほと咳き込むと、幸村と剣を交えていたはずの三成がそれに気付いて「どうした刑部」と叫び出し、遅れて幸村も「どういたしました大谷殿」と吼える。
大事無いと宥めすかすのがまた一苦労で、不満そうな三成を追い返すと話は振り出しにもどった。

「はて、何を話しておったか」
「またまた~覚えてる癖に。いつからそんなに見えなくなったのって話でしょ」

主ほど単純ではない(当然といえば当然だ)この忍に、誤魔化しという手段は通用しないらしい。

「気付いておったか」
「それ本気で言ってる?気付かない訳がないでしょうよ。俺様だけじゃない」

大将…は気付いてないかもしれないけど、黒田は気付いてるし鬼島津も確実だろ。それから、

猿飛はそう言うと一度言葉を切り、大谷の方を見据え直して言った。

「石田の旦那も絶対、気付いてる」

「そうよなあ…三成は聡いゆえ」
「妙にスキンシップが多かったりさ。俺様も初めはこんな大将で大丈夫かと思う程だったけど、あれって全部、大谷の旦那の為でしょ」

大谷自身も、流石にもう気づかれているだろうとは思っていた。
少しずつ衰えていた視力がここ何ヶ月かで急激に低下し、今ではもう日常生活にも支障が出る程だ。
昔から三成には大谷の病の進行を恐れるような所があったので、大谷としても敢えて見せつける必要も無かろうと、出来るだけその不自由を隠し通して来たのである。

「石田の旦那だってもう子供じゃないんだからさ。もう少し、頼ってやったら?喜ぶと思うぜ」

子供扱いをしているつもりはない。ただ大谷にとって、刻々と自由が効かなくなっていく病の身にあって三成との関係ほど、変わりなく身を委ねられる物はなかったのだ。
だからつい、昨日のままの扱いをずっと続けてきてしまった。

「ぬしの言うことが道理よな。それは解っておる。しかしな猿飛、三成とていつ別れるとも知れぬもの相手に、踏み込んでわざわざ辛い目にあう義理はなかろ」

「…大将から聞いたよ。あんた、滅多な事じゃ石田の旦那に担いだりさせないらしいじゃん。足腰も弱るしね、その事自体はいい事だと思うけど。どうせ、痩せたのに気づかれたくないとかそんな理由だろ」

いつの事だったか。よろけた大谷を三成が支えた時、大谷の肩の薄さに小さく息を呑んだ三成の横顔が、大谷は今も忘れられない。

「三成が過保護過ぎるのよ。われとて歩ける内は歩きたい、それだけよ」

ふうん、とつまらなそうに言って中庭へ向き直った猿飛は、直ぐに何かを思いついた様な顔をして再び大谷の方を向く。

「…じゃあ、試してみようか。おーい石田の旦那!大谷さんがお呼びだぜ!」

猿飛の良く通る声に、三成はスイッチが入ったかの様にこちらへ飛んで来る。
振り下ろした一撃をさらっと躱された幸村も拍子抜けした様で、二槍をぶら下げて呆然と立ち尽くしている。

「どうした刑部‼どこか痛むか‼」

縁側に激突せんばかりの三成に、猿飛はすかさず加える。

「ちょっと体が冷えちゃったってさ。部屋まで連れてってやんなよ。大谷さん、目が見えないらしいから気を付けて」

「五月蝿い貴様なんぞに言われなくてもわかっている。大丈夫か刑部、立てるか?寒いならそうと早く言え」

三成は猿飛を睨めつけたかと思うと大谷の方に向き直り、自分が着ている羽織を脱いで大谷の肩に掛けながら、きょとんとしている大谷を何の躊躇いもなく姫抱きに抱えようとする。

「三成三成、自力で立てるゆえ放しやれ」

三成は少し残念そうにそうかと言うと、大谷の肩を包む様に腕に収めながらゆっくりと歩き出す。
速さは無いが力強いその歩調に、大谷も黙って従うしかない。
やはり目が見えぬとばれていたかと、思う暇も無かった。

「春とはいえまだまだ冷えるからな。刑部、次からはもう少し厚着をしろ」

そう言う三成の横顔には心配と、それからほんの少しの頼られた嬉しさも浮かんでいて、目論見通りに事が進んだ猿飛には可笑しくて仕方がない。

「だから言っただろ!もっともっと、甘えりゃいいんだよ!」

三成の匂いが染み付いた羽織に包まれ三成自身の腕にも包まれ。猿飛の思惑通りの行動をされてしまえば、流石の大谷も顔を赤らめる事しかできない。
そんな大谷を見て顔が赤いぞ熱があるのかと喚く三成を、猿飛は後ろから笑わずにはいられなかった。




おまけ。

「大谷殿は目が不自由でござったか…某は全く…そうと知っていればできたこともあったろうに…」
「気づかなくても当然だよ。大谷さんだって隠そうとしてたみたいだし」
「しかし三成殿は知っていた様であるし…某はそこまで鈍いのだろうか…」
「反省するのもいいけどたまには休みなよね。休める時に休まないと、大将だって人の子なんだから」
「それはこっちの台詞だ佐助、また痩せただろう。不甲斐ないかもしれんが、もう少し某を頼って欲しい」

幸村は佐助の顔を心配そうに覗き込むと、頭をポンと叩いて去って行った。
残された佐助が、

「だから…そういうの反則だって…」

三成に抱えられた大谷よりも赤い顔をしていたのは、また別のお話。