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続・バレンタインは好きですか?

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「何だい、その荷物」
開口一番、眉を顰めた数少ない友人に、これまた出迎えた彼にとっても数少ない友人である臨也は平然と答える。
「見て分からない?チョコレートだよ」
臨也が差し出した紙袋からは色とりどりの包装紙にラッピングされた四角い箱が顔を覗かせている。その紙袋を受け取りながら新羅は大げさに肩を竦め、臨也を部屋へと迎え入れた。
「毎年、凄い量だね。どうして食べてもくれない君がこれだけの量を貰ってるの?自分で買ってるの?」
「言ってくれるね。悪いけど俺もそこまでヒマじゃないよ。それは首無しと二人で食べたら?」
「ありがとう。でも友人とはいえ、他の男から貰ったものを彼女に渡す訳にはいかないな、僕一人で頂くよ。ちなみに彼女は君からの依頼で今、留守にしているんだけど」
「知ってるよ、だからここでお茶でも飲んで、戻りを待ってようと思ってね」
【首なし】と言いながらチョコレートを食べろという臨也に苦笑して、新羅はキッチンへと向かう。そして臨也はといえば、ジャケットを脱いで既にソファへと身を埋めていた。それが二人にとっての普段どおりだった。
「そういえば、君、静雄にもチョコレートあげたんだって?なんか凄く機嫌悪そうだったけど」
「あぁ…」
上質な紙にラッピングされ、丁寧に包まれた媚薬が入っているという夢魔のシンボルマークのチョコレート。その一つを無理矢理、静雄の口に押し込んだ。 文句一つ言わせないように己の唇で彼の唇まで塞いで。チョコを飲み込んだのを確かめて、突き放した。
離れ際に見た静雄の呆けた顔を思い出して笑みが零れる。
新年が開けてまだ間もない頃、臨也はインターネットの掲示板に一つの書き込みをした。
『今年、海外から輸入されたという夢魔のシンボルマークが付いたチョコレート。それは僅かながら媚薬成分が含まれているらしい』
『本当に?』
『どうせネタだろ?』
『でも気になる』
『もし本当なら…』
小さな掲示板に打ち込んだ話題が時間の経過と共に一人、二人、五人、二十人…と増え始め、その噂は瞬く間に街を駆け巡った。
そしてバレンタイン商戦が始まり、販売開始から30分もせずに売り切れたというそのチョコには、媚薬なんて入ってるわけがないのだと噂を流した当人が誰よりもよく知っていた。
「一体、何したの?」
何をあげたのか、ではなく、何をした?と訊く新羅に臨也はその笑いを声に出した。
「普通にチョコレートをあげただけだよ。そりゃほんの少しは悪戯はしたけれど、何をどうやってあげようが俺が関わってる限りはシズちゃんは怒るだろうからね」
「悪戯?」
「媚薬入りチョコレート」
「ああ、それ君が流したやつだろう?」
悪びれない臨也に、新羅は甘い香りのする飲み物を差し出す。その香りを吸い込んで臨也は新羅に尋ねる。
「…これは… チョコレート?」
「当たり。と言っても、チョコレートとシトラスの香り付けがされた紅茶だよ。差し詰め僕から君への友チョコってやつかな?」
セルティにプレゼントするものだけれど、少しだけ君に分けてあげるよ!と両手を広げて天を仰ぐ。
「口には出来ないけれど、香りなら彼女も知覚出来るからね。味は君が確かめてくれればいいよ」
そう臨也に向けて言う新羅の目は心の底から彼女を愛していると伝えている。体中、足の先から指の先まで。
そんな化物相手に捧げる予定の、愛がたっぷり詰まった紅茶を臨也に飲めと新羅は差し出すのだ。そして臨也もそれを知って口に運ぶ。
「本当に媚薬入れてやれば良かったな」
不穏な言葉を口にしながら。
「そうそう。少し話はズレるけど、チョコレートは一時期中毒性のあるものだって取り上げられたことがあったよね」
「ああ、アルコール中毒症状のように、チョコレートには摂取せずにはいられない中毒性の成分が入っているってやつだろ?」
「そう。事実上そういった成分は含まれいなかったけれど、チョコレートを食べ続ける人は未だにその成分が含まれているってことを信じている人がいる。店の名前に使われたり、洋服のブランド名にまでなっているぐらいにチョコレートは多くの人に愛され、中毒性をPRする代名詞として扱われているんだ」
「だから?」
「プラシーボ効果と一緒だよ。本人さえそう思い込めばそれは事実になる」
聴き慣れた医学用語に臨也は首を傾げた。
「周りくどく言い過ぎたね。単刀直入に言おう。もしかしたら静雄も君があげたチョコに媚薬が入っていると信じているかもしれないってこと」
「……」
新羅はニッコリ笑って言った。
「ちなみにさっき静雄から臨也の居場所を聞かれたんだけど、もうすぐここに来るんじゃない?」


「やぁ、おかえりセルティ。お仕事お疲れ様!寒かっただろう?」
雪に塗れて帰ってきたセルティを新羅はタオルを手渡す。もちろん、セルティにとっては気温は感じることは出来ても温暖とは無縁だ。
『ただいま。なあ、さっき臨也と擦れ違ったんだがなんかいつもと違って様子が可笑しかったような…』
「臨也ならさっきまでここに居たよ。恋人達が過ごす一大イベントの日にまさか君に仕事入れるなんて…酷い奴だ、思わず意地悪したくなったよ。さぁ、君に暖かいものを用意しているよ、中に入ろう?」
『ああ、ありがとう。でも、こう珍しいものを見たような、いや、やっぱりあれは見間違いだったような…』
耳まで真っ赤にした臨也がセルティに気づかない程に慌てて擦れ違ったのは、また別の話。