チュロス
パチパチと広いキッチンに油のはねる音が響き渡る。
アントーニョは一人でチュロスを揚げていた。
「なんや、一人って寂しいなぁ」
普段なら一緒に住んでいるロヴィーノがいるのだが、今は弟のフェリシアーノのところへ泊まっているため、不在である。帰ってくるのは今日のはずだ。ここ最近家を空けることが多いので、豪華なものが作れるような食材がない。せめてものもてなしとして、チュロスを揚げていた。
「昔はベルと一緒に三人で作てたのになぁ…」
最近はロヴィーノともチュロスを揚げていない。スペイン国内で、いろいろと厄介ごとがあり、この処理に追われているためあんまり家にいられない状態だったからだ。
今日はなんとか時間が貰えたので、ロヴィーノが帰ってくるのを待っている。ロヴィーノが帰ってきても、また処理のため家を空けなくてはいけない。
寂しくないだろうか。
つまらなくないだろうか。
そんなことを考えているうちに、チュロスが狐色を通り越した状態になっていた。
「あぁ!こげてもたわぁ!」
普段なら絶対にありえない失敗だ。こんな失敗をするほど、今のアントーニョは不安でいっぱいだった。小さい頃から世話をたくさん焼いたけど、アントーニョにとってロヴィーノの存在は大きいものだった。
「早く…あいつ帰ってこうへんかなぁ…」
そう思った矢先、玄関からドタバタと音がして、直後、威勢の良い声が聞こえた。
「おい、アントーニョ!帰ってきてやったぞコノヤロー!」
数日振りのロヴィーノの声を聴いて、胸が高まる。
「ロヴィ!よう帰ってきてくれたなぁー!」
ありったけの笑顔を向けながらロヴィを迎えた。キッチンに入ってきたロヴィーノは、そこに立ち込める焦げ臭い匂いに顔を思いっきりしかめた。
「なにしたんだよちくしょー!焦げ臭いじゃんか!」
「ごめんなぁ、ロヴィのためにチュロス作っとったんやけど、考え事しとったら、焦がしてもてん…堪忍してや」
「えー!俺いま腹減ってんだよちくしょー!今すぐなんか作れ!」
何かと言われても、いま家にある食材で作れるものとすれば…
「なぁなぁ!そやたら、二人でチュロス作らへん?」
これしか、ない。
「なんで俺がお前なんかと!だいたいテメーさっき焦がしたとか言ってただろコノヤ…」
ロヴィが最後まで言葉を発する前に、アントーニョはロヴィを抱きしめた。
「ちぎ―――――!!!なっなにするんだよコノヤロー!はーなーせーっ!!!」
言葉使いも、態度も。
昔から少しも変わっていない。
「ええやん!ほな、作ろや!」
久しぶりに二人で作ったチュロスは、
とても暖かくて
やさしい味がした。