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ハッピーバレンタイン?

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「おっチビーー!おっはよ!」
 吐く息も盛大に白くなる2月の朝。
 テニス部周辺では、寒さも吹き飛ぶような熱さの光景が日常となっていた。
「何なんスか、あんたは!重いって言ってるでしょうが!」
「え〜〜!暖かくない?体温高い分、さっむそーなおチビにプレゼント〜!」
 リョーマがもがけばもがくほどにのしかかる菊丸は体重をかけ。
 周りも既に日常と認識しているのか、誰も止めようという者はいなく。ただただ、生暖かく見守るばかりだった。
「あぁ、もう!………てか先輩、肥えたんじゃないっスか?部活も引退したし。」
「失礼な〜!これでも毎日運動は欠かしてないですよ〜」
 朝なり夕なりに毎日繰り広げられる痴話喧嘩にも似たようなやりとりに、あてられるを通り越して呆れかえる他の部員達は既に片づけも着替えも済ませて教室へと向かい始めていた。


「お〜い、越前!英二先輩!そろそろ予鈴!!」
 部員のあらかたが教室へ向かい始め、寂しくなった頃、着替えを終えたのか部室から出てきた桃城に声をかけられる。
 よく見ればリョーマはまだジャージ姿な訳で。急いで着替えても遅刻は免れない状況だった。
「………げ、こんな時間。」
「…遅刻したら菊丸先輩のせいっスからね…」
 慌てて時計を確認すれば、確かに始業8分前。部室から校舎への距離も考えるに、そのままでギリギリという時間だった。
「桃も、もちょっと早く言えよ〜!」と、菊丸も拳を振り回し責任を転嫁するが、桃城もそれを軽く流し校舎へと駆け出す。


「…はぁ…とりあえず着替えてきますから…」
 ため息混じりに菊丸へと訴えれば、珍しいほどすんなりと手を引く。あまりにスムーズにふりほどけたのに一抹の寂しさをぼえつつ菊丸を見れば、なにやらカバンをごそごそといじっている。
 何かと思いつつも時間が時間なので、慌てて部室へと向かうが…
「おチビ!」
 呼ばれて振り返れば、見覚えのある−しかし、リョーマが愛飲するそれと違い、オレンジ色の−缶が宙を舞っていた。
「え?ちょっと!」
 慌ててそれを受け取れば、いつもとは全然違う。重さも、さわり心地も、温度も。
 訝しげにそれを見てみれば、「ファンタ」ではなく「アンタ」の3文字。
 しかも、その下には「ダイダイスキ」などが、ファンタそのものと同じような書体で書かれている。
 何かと問おうとすれば、既に菊丸は校舎へと駆けていて。
「とりあえずあげる〜。本番はまた明日にね!」
 そう言い残して去っていった。
「………まぁ…先輩らしいっていうか……」
 苦笑しつつそれを手の中でクルクルと回す。
 「とりあえず」と言われて渡されたそれは、ちょっとおふざけ用のモノだけれども。
 きっと、見つけた途端に嬉しそうに手に取りレジへ走った菊丸の様子が見えるようで。
「まったく。明日はちゃんと楽しませてくれるんスよね」
 と、彼の去ったあとへと投げかける。


 その後、そのチョコの落とし穴にリョーマが気付くまで、数分と経たなかった。




「おチビ〜〜!おはよ!」
 約束の時間通りに珍しく来たリョーマに駆け寄るが、反応はない。
「………」
「おチビ??」
 覗き込むが、その表情はあまりよくないもので。
 何か心当たりのない菊丸には、頭に浮かぶのはクエスチョンマークだけで。
 戸惑う菊丸を前にリョーマがふと顔を上げる。−−−−恐ろしいくらい満面の笑みで。
「……おチビちゃん?」
 その笑顔に何らかの含みがあるのに気付き、菊丸の背中に冷たいモノが走った瞬間、それが目の前に突き出された。
「…コレなんスか?」
 それは、確かに昨日リョーマへと贈ったモノで。全く訳の分からない菊丸はきょとんと目を丸くする。
「へ?昨日の?だよねぇ??」
「ふーん、んじゃ気付かなかったンスか?」
 そう言い、缶を軽くくるりと回せばそこには「キライ!」「帰ってきて!」などの文字が並んでいた。
 それを見た瞬間、菊丸の顔から一気に血の気がひいた。
「うえっ!なにこれ〜〜!俺知らなかった!!」
 それもコレも、商品をよく見ずに、正面から見えるモノだけを見て衝動買いした菊丸も悪いが。
 だからといって、バレンタインのチョコ売り場にそんな文字の入ったモノがあるとも思わないのもまた道理で。
 寒い中、何が悲しくて冷や汗なぞかかなくてはならないのかと思いつつリョーマを見れば、まだその笑みは張り付いていて。
 普段、あまり表情を覗かせないだけに、菊丸にとって恐怖を伴っていた。
「おチビ…怒ってる??」
 おずおずと聞き返せば、やはり帰ってくるのも笑みで。
 それに固まっていると、ようやく別のリアクションが返ってきた。
 それはたった一つのため息だけれども、いつものリョーマの反応に、菊丸の固まった体もほぐれだした。
「まぁ、こんなのはお遊びと思えばどうってことはないっスけどね。」
 言いつつ缶をクルクルと手の中で遊ばせながら菊丸へと挑発的な表情を向ける。
「あんまもらって嬉しくはないし。その分は今日たっぷり楽しませてもらえるんでしょ?」

 その挑んでくる視線が、意地悪げに釣り上がった口元が。
 さっきの満面の笑みよりも断然魅力的に見えてしまう自分はもうお終いかなぁ。と思いながら、菊丸は大きく首を縦に振り、Vサインを贈る。

「もっちろん!とびっきり楽しい目にあわせてやるーー!」


 もちろん、その勢いで抱きついてリョーマにチョップをもらうことになるのはお約束である。


END
作品名:ハッピーバレンタイン? 作家名:KNA